「獣医師の姿勢を正す」ことを目的とした佐藤源治先生の論説文は,獣医療の公益性,公共の福祉という立場に立ったものであり,高く評価されて当然でると判断し,また,52巻2号に記載された編集委員会からのコメントも公益法人の会報の編集委員として当然のことであり,ここに何故憲法第21条を引用しないといけないのか,理解に苦しむ.
  ACE阻害薬に関しては,過去には人体薬しかなく,正に止むなく使用していただけで,主成分が同じ動物薬が承認された昨今では,原価がどうあれ,動物薬を使用するのが当然のことで,議論の必要性は皆無であろう.
  アイボメックは未承認薬ではなく承認薬である.対象動物は犬ではなく,牛,豚であり,効能効果にフィラリア症予防はなく,内外部寄生虫の駆除であることをお忘れなく.
  今般のカルドメック等の要指示薬化は,獣医師の診断を伴わない不適切な投与は,死を含む重大な副作用を伴う恐れがあるにもかかわらず,薬事法上,普通薬の扱いであることは好ましくないということが理由である.
  法令や制度がすべて万全なものであると考えている人はまずいないと思う.しかし,わが国が法治国家である以上,その法令や制度に従うのは国民として当然のことである.法令や制度に欠陥があれば,それを正すための合法的な行動を起こせばよいのである.一獣医師に何ができると反論する方もいるが,現に一人のあるいは少数の獣医師の行動によって,法令や制度が変わった例は存在するのである.
  薬品メーカーの薬品名を明記した新聞広告は,もちろん,株式会社である以上,営利の目的もあるだろうが,その反面,「公共の福祉」を目的としていると私は考える.何故か? それはフィラリア症予防を訴えているのと同時に,暗に水ぐすりをフィラリア症予防と称して処方することを否定しているからである.同じ理由で,犬フィラリア症予防普及会と日小獣が毎年出しているフィラリア予防のポスターに数年前から承認薬の写真が載っているのは,飼育者(国民)にとってはなはだ都合がよい.ただし,権利(?)の上で眠る者,権利を乱用する者にとっては都合が悪いことは確かである.
  一方,「バイアグラ」は,あれだけマスコミで取り上げられている訳だから老若男女を問わず,この薬品名を知らない人は希少価値であろう.メーカーにとって新聞広告を出す必要性は皆無ではなかろうか.
  平成5年3月に開催された東京都獣医師会の症例報告会において「使用された予防剤別のフィラリア寄生状況」が発表されているが,アイボメックの投与により高率な感染が認められ,また,獣医畜産新報Vol. 44,No. 7で,澤村 寛先生は「イベルメクン注射液に対する希釈調整液の検討」において,希釈液の不確実性を発表されている.また,私自身,学会では報告されていないが,元水ぐすり愛好家から「水ぐすりを飲ませてフィラリアにかかった」という話は,何度も耳にしているし,抗原検査キットが販売されるようになってからは,特に水ぐすり投与による多くのフィラリア症感染を実証している.多くの開業獣医師も同じ経験をされていることと確信する.
  動物の保健衛生の向上を図ることを任務とする獣医師の手によって,多くのフィラリア症感染犬が生み出されたというこの事実を真摯に受け止め,その反省の上に立って,われわれ開業獣医師は,適正獣医療の推進に努めなければならないということを肝に銘じる必要があるのではなかろうか.
  それが,原点であることは,いうまでもないと思う.
  水ぐすりによって失墜した獣医師の社会的地位の回復は,一人一人の獣医師が,その原点に立つ以外に方法はないのではなかろうか.