特に,獣医業のような科学技術が超スピードで進歩し,グローバル化して行かねばならない分野では,約3年ごとに配置転換を繰り返されたのでは担当分野の専門知識を十分マスターできないだけでなく,先進諸国の専門家(プロ)と対等に討論したり,途上国のリーダーシップを取ることは難しい.もし,どうしても配置転換を続けねばならない場合には,獣医行政分野をいくつかの専門分野に分け,関連する分野内で移動し,専門知識の継続的な積み重ねができるようなシステムを作る必要があるのではなかろうか.新しい情報システムの作成や,危険度分析,経済的評価,危機管理システムの作成にしても,5〜10年はかけないと必要なデータは集められないし,先進国としてのビジョンや計画を作り,時代のニーズに応じた変革を次々に進めていくことは難しい.
  もう一つ重要なことは,日本の国際化のためには,それぞれの分野の専門家をできるかぎり継続的に海外の専門家の会譲に出席させ,顔を売るだけでなく,リーダーシップの取れるような担当官を増やしていくことである.それがまた日本の獣医行政のレベルアップにもつながるはずである.1回だけの海外出張ではレポートを書くだけで精いっぱいである.先進国を追っていた時代の行政官ならば調査結果を持ち帰ってくるだけでよかったが,これからは日本の行政方針を世界に示し,議論しながら前進していかねばならない.それが先進国としての資格と責任である.FAOやWHOの専門家会議やOIEやWTO等の海外での活動でリーダーシップを取れるように常に努力していく必要がある.欧米やオセアニア諸国は10年以上前からその努力を続けてきたが,日本も獣医教育と行政の分野で真の国際化,グローバル化のためにさらに一層の努力を続けていく必要があると思う.
  もう一つの獣医行政上の大きな問題は環境問題,食品の安全性,動物愛護等の分野の担当官庁の多分化で,一局にまとまっていても行政処理はますます複雑になる時代にきているのに,思い切った手を打つことができないでいることである.今度の行政改革論議でも一本化どころか,省庁間の垣根はますます高くなってしまいそうである.21世紀にはこれらの垣根や壁を一つ一つ取り除くことのできる政治家や指導者の生まれることを願って止まない.