【資 料】
「動物医」の提唱について
朝日光久(日本獣医師会事務局長,東京都獣医師会会員)
本誌Vol. 52,No. 4(1999年4月号)の「読者の声」に静岡県獣医師会・名倉啓一郎先生の「獣医という資格名を動物医と改めることを提唱したい」というご意見が寄せられた.私も,基本的に名倉先生のお考えに賛成である.
実は,この問題については,平成4年5月に行われた獣医師法の一部改正の際,農林水産省に設置されたワーキング・グループにおいて検討の俎上に登った経緯があるが,ここでワ−キング・グル−プについて若干説明しておく必要があろう.
このワーキング・グループとは,農林水産省が獣医師法の改正を検討するに当たり,その実現を長年にわたり強く要望してきた日本獣医師会との間で「十分に意見を交換し,調整のうえ,両者が共通の認識に立たなければ法改正は困難である」として平成3年6月,同省が“特例的に”設置したものである.
ワーキング・グループのメンバーは,農林水産省から畜産局の堤畜政課長,石井衛生課長,榎本畜政課指導官,矢ケ崎衛生課課長補佐ほか3名,日本獣医師会から塚田・鈴木両副会長,五十嵐・竹内両常任理事,島田顧問弁護士,池澤事務局長それに朝日(総務部長代理.いずれも当時)の7名で構成された.
ワーキング・グループでは平成3年6月26日の第1回会議から同年10月11日の第7回会議に至るまで本会の要望事項を含め,さまざまな事項,問題について精力的かつハードな検討が行われたが,獣医師の呼称の件は,第6回会議において農林水産省から提案があったものである.
すなわち,小鳥を獣医師法第17条の診療対象動物に追加する等に当たり,“獣”の基本的な解釈の問題にも関連して「この際,獣医師という呼称の見直しについて検討してはどうか」ということで,同省の求めに応じて日本獣医師会が作成し,提出した下記資料に基づき,第7回会議,最後のワーキング・グループ会議において本問題の具体的な検討が行われた.
その検討の結果,「獣医師の呼称を例えば動物医師と改めることについては,わが国の獣医界全体に及ぼす影響が大であることから,十分に関係方面の意見を徴し,合意を得る必要があるが,それには十分な時間的余裕がなく,法改正には間に合わないことから今回は見送る」こととされたのである.
以上のとおり,獣医師の呼称の問題について過去に検討した経緯の一端を披瀝したが,いずれ社会のニーズ,獣医療の業態の変化等によりふたたび獣医師法,獣医療法の改正が行われることになった暁には,本問題を再浮上させることを念頭に置いておかなければならないと考えている.
その際は,獣医師会のみならず大学,関係機関・団体等,獣医界全体の意見を徴し,十分に検討のうえ,意思統一を図るとともに,関係各方面に対する根回しを行う等,事前に時間的余裕をもって慎重に対応することが求められよう.
いずれにしても,名倉先生のご提唱に関し,下記の資料がご参考になれば,当時何かと苦労の多かった獣医師法改正作業に従事した一人として幸甚に思う次第である. |