論     説

動物検疫について思うこと

動物検疫所 所長 藤 井  博

 現在,動物検疫所には約250名の家畜防疫官が勤務している.私が農林水産省に入省した昭和45年当時の定員をみると83名となっているので,約3倍に増加したことになる.
  このように職員の数が増加したおもな理由は,経済の発展にともなう国際的な人および物の流れの大幅な増加にあると思われる.特に,シフト勤務であるがゆえに多数の職員の張り付けを要する成田,関空を始めとする空港検疫の進展,さらには,規制緩和の一環として,地方の要請により行われてきた地方海空港の指定の増加(現在68港)の影響が大きい.現在,動物検疫所は,北から南まで広範囲の地方海空港検疫をカバーするために,出張検疫に要する人員および旅費の確保に追われている状況である.
  このような中で,近年,新たな情勢の変化が現れ始めた.
  一つは,動物検疫を含む人や動物等の健康にかかる衛生措置が,国際間の貿易において聖域として見なされなくなったことである.現在のWTO体制下においても,SPS協定により,各国の国境衛生措置は,科学的な根拠がなければ原則として国際基準に基づかなければならないことになっている.具体的には,動物検疫に関しては,パリに本部のある国際獣疫事務局(OIE)の定めるコードに基づいて検疫を行わなければならず,それよりも厳しい措置を取る場合は,対象品目等について危険度の分析を行い,科学的な根拠を示さなければならない.わが国のように農産物の輸入国でかつ清浄度の高い国は,できるだけ厳しい輸入検疫措置を取りたいところだが,なかなかそうもいかない情勢である.さらに,輸入禁止地域の定め方についても,従来の国を単位とした区切り方ではなく,たとえ悪性伝染病の発生している国であっても厳格なフリーゾーンを設定すれば,そこからの輸入は可能とすべきという考え方も強くなってきている.来年から始まるWTO協議においては,わが国は厳しい対応を迫られるであろう.このような状況に対応するためもあって,今年度から新たに,畜産局衛生課に国際衛生対策室が設置され,国際衛生班と国際検疫班の2班体制となった.動物検疫所にも従来の検疫部に加えて精密検査部が設置され,その中に危険度分析課が設置されることとなった.