もう一つの変化は,国民の安全性に対する意識が高くなり,動物検疫所もそのことに配慮して業務を行わざるを得なくなってきたことである.最近における英国の狂牛病(BSE)や病原性大腸菌O-157騒ぎ,一昨年春の台湾の口蹄疫,冬の香港の鳥インフルエンザに対する食品業界および消費者の敏感な反応をみても,従来の家畜への病原性のみに関わる動物検疫ではすまなくなってきているように思われる.初生ヒナの検疫でサルモネラが摘発された場合でも,たとえそれが検疫対象のサルモネラ種でなくても最終的には受取人の意向等により,淘汰されることが多い.また,伝染病とは関係ないが,ダイオキシン対策のため,動物係留施設にある焼却炉も改造中である.
  昨年秋に感染症予防法が制定され,来年1月から動物検疫所においてエボラ出血熱,マールブルグ病を対象にサルの検疫を行うこととなった.また,狂犬病予防も同時に改正され,従来の犬に猫,アライグマ,スカンク,キツネが加わることになった.これらに対処するため,本年10月から成田支所に検疫第4課,関西空港支所に2係が設置されるとともに,成田,関空の2カ所にサルの検疫施設を,全国11カ所に猫等の検疫施設を建設中である.来年からは制度的にも公衆衛生への関わりが強まることになる.
  このような状況の中で,動物検疫所としては,より一層的確な検疫に努めることはもちろんであるが,一方では,今後も増大するであろう人および物の流れを過度に妨げることのないよう配慮する必要がある.したがって,危険度分析等の手法を使ってより重点を絞った検疫を考えていくことも動物検疫所の重要な業務になるのではないかと考えている.特に,人の健康に関わる部分は,世間の関心も高いことから神経を使う場面が増えてくるかもしれないが,状況を科学的かつ合理的に判断できるよう日頃から知識の集積および考え方の整理をしておく必要があると思っている.