【資 料】
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」
制定の背景とその概要
森田邦雄(厚生省生活衛生局乳肉衛生課)
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)」(以下「感染症新法」という.)が「検疫法及び狂犬病予防法の一部を改正する法律(平成10年法律第115号)」(以下「狂犬病予防一部改正法」という.)とともに平成10年7月開会された臨時国会において成立し,平成10年10月2日公布された.
これに伴い伝染病予防法(明治30年法律第36号)が廃止された.
1.感染症新法制定の背景
明治30年に伝染病予防法が制定され101年が経過し,この間医学,医療の進歩,衛生水準の向上および国民の健康,衛生意識の向上に伴い,コレラの集団発生等はなくなってきているが,一方では腸管出血性大腸菌O157による集団発生が社会問題となり,また,外国においては,エボラ出血熱等これまで知られなかった,いわゆる新興感染症が出現し,国際交流の活発化に伴い国内に持ち込まれる危険性が高まっている.
さらには,近い将来克服されると考えられていたマラリア等が再興感染症として再び問題化する等,感染症が新しい形で人類に脅威を与えてきている.
また,伝染病予防法は,強制的な予防措置がすでに不要となっている感染症を法定伝染病として法律に位置付けている一方で,エボラ出血熱等の世界的に問題視されている危険な感染症が法の対象とされていないこと,感染症の予防措置に関し,感染症が発生した事後の対応に偏っていること,患者に対する行動制限に際し,人権尊重の観点からの体系的な手続き保障規定が設けられていないこと等の点で,時代の要請に応えることができなくなってきている.
2.感染症新法の概要
(1) 感染症の予防のための施策は,感染症の患者等の人権に配慮しつつ,総合的,計画的に推進することを基本理念とすること.
(2) 国は感染症の予防の総合的な推進を図るための基本指針および特に施策を推進する必要がある感染症についての特定感染症予防指針を定め,都道府県は感染症の予防のための施策の実施に関する予防計画を定めることを定めたこと.
(3) 感染症について,その感染力,感染した場合の重要性等による危険性に応じて類型化し,就業制限等の手続き規定を設けたこと(表1)
ア.一類感染症
エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,ペスト,マールブルグ病およびラッサ熱
イ.二類感染症
急性灰白髄炎,コレラ,細菌性赤痢,ジフテリア,腸チフスおよびパラチフス
ウ.三類感染症
腸管出血性大腸菌感染症
エ.四類感染症
インフルエンザ,ウイルス性肝炎,黄熱,Q熱,狂犬病,クリプトスポリジウム症,後天性免疫不全症候群,性器クラミジア感染症,梅毒,麻しん,マラリア,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症その他のすでに知られている感染症の疾病であって,国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生省令で定めるもの.
(4) 感染症を診断した医師の届出義務に加えて
「獣医師は,エボラ出血熱,マールブルグ病その他の一類感染症,二類感染症又は三類感染症のうち政令で定める感染症ごとに当該感染症を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定めるサルその他の動物について,当該動物が当該感染症にかかり,又はかかっている疑いがあると診断したときは,直ちに,当該動物の所有者(所有者以外の者が管理する場合においては,その者.以下この条において同じ.)の氏名その他厚生省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない.」旨の規定を設けたこと.
(5) サルその他の動物に係る輸入検疫等必要な措置を設けたこと.
表1はこちら
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