リボザイムによる遺伝子治療への期待
リボザイムは遺伝病などの遺伝子発現がかかわる疾患の治療薬として現在期待され,研究が進められている.この遺伝子発現のステップにかかわる疾患としては,がん,遺伝病,ウイルス疾患等が含まれるが,その多くは,根本的な治療法が確立されていない.考えられる治療法としては,遺伝病のもとになる悪いDNAから読まれた悪いRNAを見分けて,分解してしまえばよいという方法が考えられる.RNAウイルスによるウイルス病ならば,そのRNAゲノムを分解してしまえばよいのである.そのためには,非常に特異性の高いRNA分解酵素が必要とされる.これまでの蛋白質工学では,標的の悪いRNAだけを分解し,他の健全なRNAを分解しない蛋白質酵素を作ることは不可能であった.しかし,図3に示すようにハンマーヘッドリボザイムをもとにして特異性の高い酵素を設計することが可能である.実際に小泉らは,点突然変異により活性化したがん遺伝子(ras)のmRNAのみを切断し,正常なmRNAは切断しないハンマーヘッド型リボザイムの設計に成功している[総説として13].紙面の都合上詳しく触れられないが,ハンマーヘッド型リボザイムのほかヘアピン型リボザイム(hairpin
ribozyme)と呼ばれるリボザイムも応用研究が進んでいる[6, 8].
設計したリボザイムは,試験管内で反応させれば,ほとんどの場合,間違いなく標的RNA配列を切断できる.しかし,現在のところ,試験管内とまったく同じレベルで細胞内でも標的を切断できるというわけではなさそうである.これは,細胞内でのリボザイムの安定性,標的との遭遇の確率などの問題がからんでいるようである.しかし,細胞内で大量に発現させるなど,工夫がなされ,いくつかの成功例が報告されている[総説として1].生細胞内へ導入する方法としては,リボザイムを大量に人工合成し,リポフェクションするものや,発現ベクターにリボザイムのDNA配列をつなぎ,DNAのトランスフェクションで細胞内に導入し発現させるなどの方法がある.エイズの病原体であるHIV(human
immunodeficiency virus)のゲノムを標的とした報告が多い.Yuら[14]は,設計したヘアピン型リボザイムの配列を強力なプロモーターの下流につなぎ,細胞内にこのDNAを導入し発現させることにより,HIVの複製を90%以上抑えたと報告している.現在のところ,細胞レベルでHIVの増殖を抑えたり,細胞のがん化を抑えるという報告はいくつかなされている[1].今後解決すべき技術的問題は多いが,さらに臨床的な治療を目的とする応用研究が発展するであろう.このような試みも含めリボザイムの関係する応用分野は,RNA工学と呼ばれ,今後のさらなる発展が期待されている.おとなしいRNAからは考えられない変身ぶりである. |