【参考】

ニッパ(ニパ)ウイルス感染症の現状


 本年7月19日から21日まで,マレーシアで開催されたWHO主催の「パラミクソウイルスによるズーノージス」の専門家会議にOIEを代表して出席した.本会議では主としてマレーシアのニッパウイルス感染症をオーストラリアのヘンドラウイルス感染症と比較しながら考察し,ニッパウイルスの人および動物における病態や疫学,マレーシアの実施した対策の報告と今後の課題,サーベーランスの問題および今後の研究課題が討議された.その結果 ,ニッパウイルスとヘンドラウイルスは,血清学的にも交差するだけではなく,いずれも人や多くの動物に感染を起こすこと,およびいずれもフルーツコウモリ(Megachiroptera)がウイルスのおもな保有宿主(reservoir)と考えられることから,パラミクソウイルス科の新しい属名としてメガミクソウイルスと呼んではどうかという提案があった.

本会議のおもな勧告として次の8点が挙げられる.

1. 各国政府は新しい人畜共通感染症に対する緊急対応計画を作成し,指揮官,対応班の担当者,報道班の担当者等を前もって決めておくこと.
2. ニッパウイルス感染症の再発の場合は,感染家畜および同農場内の家畜を殺処分すると同時に家畜の移動を禁止する.また,感染の危険性の高い者に対して特 別 な衣服や防御装備を適用する.農民や関係業者に対する病気に関する教育を強化する.人および家畜の衛生関係者および検査機関の情報の交換を継続的に行う.
3. 農家に対する適正な補償金の確約が殺処分や移動禁止措置の徹底に必要である.
4. 伝染経路に関する知識は不十分であるが,養豚従事者や獣医師は全身に防御用の衣服や装備を使用し,注射器は1頭ごとに代えるべきである.
5. より簡便化された検査方法の確立が必要であり,各国の監視システムを強化する必要がある.
6. アジア太平洋地域にBSL-4(生物学的防御レベル-4)のリファレンスラボラトリーを決める必要がある.
7. 疫学的研究を強化し,これらウイルスの自然界の宿主を確定し,人および動物への感染経路を確立すると同時にリスク因子を確定する必要がある.
8. これらウイルス疾患に対する薬剤およびワクチンの開発の研究を進める必要がある.