参考:マレーシアにおけるニパウイルス病 発生状況の予備報告

 診   断
 (1)ウイルス分離
 ウイルス試験のために肺,肝,腎,脾,心,脳の組織標本が剖検した動物から集められた.組織標本はジョージア州アトランタのCDCに送付された.
 分離ウイルスによる分子生物学的検査の結果,ヘンドラウイルスと核酸配列で21%,アミノ酸配列で11%異なっていた.
 (2)血清学的試験
 Iphoの獣医研究所およびマレーシア大学(医微生物学部)でそれぞれ動物と人の血清学的検査が実施された.
 検体は上記の研究所でIgGおよびIgMキャプチャELISA試験により行われ,豪州GeelongのAAHL(家畜衛生研究所)では不活化血清の中和試験により検査された.
 流行期間中の動物の血清学的サーベーランスの結果
 (1)豚
 以前に感染のあった養豚場では種雌豚の95%以上がニパウイルス抗体陽性を示し,また子豚は90%以上が抗体陽性で,その抗体は親からの移行抗体と考えられた.
 感染養豚場における年齢階層別抗体保有率は現在調査中.
 (2)馬
 感染地域の農場のポロ競技用の馬47頭のうち2頭がニパウイルス抗体陽性で安楽死された.マレーシア国内の競走馬は全頭陰性であった.
 (3)犬
 感染地域で捕獲された犬の50%以上がヘンドラウイルス抗原を使ったIgGキャプチャELISA検査でニパウイルス抗体陽性であった.
 (4)猫
 感染地域の猫23頭のうち1頭が抗体陽性であった.
 (5)コウモリ
 ニパウイルスに対する中和試験でオオコウモリ99頭のうち15頭が陽性であった.
 (6)げっ歯類
 現在のところ感染地域で捕獲したネズミの血清は陰性であった.調査続行中.
 (7)他の動物
 今後,検査に供するため,牛,山羊,羊,リス,野豚,野鳥,家きん,ダチョウから血清を採取した.
 コントロールおよび撲滅計画
 (1)ニパウイルスコントロール計画(第一段階)
 新しいウイルスの関与が判明したことから,豚の大量淘汰による本病撲滅計画がただちに開始された.
 1999年2月28日から4月26日の間に4つの感染地域(PERAK州1カ所,SELANGOR州1カ所,NEGERI SEMBILAN州2カ所)で計901,918頭の豚が淘汰された.
 (2)ニパウイルスコントロール計画(第二段階)
 ニパウイルスに対する抗体の保有状況により汚染の事実関係を調査するサーベイランス計画が進められた.従来から高リスク地域として指定されていた地域の外側にある養豚場すべてについて,ニパウイルスに対する抗体の摘発を目的として,種雌豚から統計学的に有意な頭数規模でランダムサンプリングによる検査を行った.3週間間隔で2回実施した検査で陰性結果 がでた農場は暫定的に清浄のステータスが与えられる.しかしながら,1回目または2回目の試験で陽性だった農場では淘汰が行われる.
 現在までのところ,235農場が検査を受け,そのうち9農場が陽性とされ,飼養されていた23,736頭の豚のうち,11,458頭が淘汰された.
 この計画では824農場,160万頭の豚が検査されることになる.
 今後の活動
 ニパウイルスの自然宿主および家畜と人間への伝播経路をつきとめるための調査が続行される.この流行をきっかけにマレーシア政府は養豚産業の位 置づけと再生の方向性について見直す機会を得ることになった.

MOHD NORDIN NOR博士 1999年5月19日
マレーシア・クアラルンプール・獣医局
(家畜衛生週報No. 2557,1999年6月21日号から)

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