参考:米国における1997年の狂犬病調査

 コウモリの狂犬病は,陸生肉食動物に見られる狂犬病とは疫学的に性質を異にしている.コウモリにおける狂犬病の伝播については,肉食動物における伝播と違い,今なお不明な点が多い.経口型ワクチンの使用は,ヨーロッパやカナダ南東部と同様,米国でも陸生動物の狂犬病の抑制に効果 を発揮しているが,コウモリの狂犬病の流行を阻止したり,それが人間に伝染する危険を減らしたりする効果 は期待できない.
 1997年10月20日,米国食品医薬品局は,人間の狂犬病予防薬として,感染源との接触前にも接触後にも使用できる新たな狂犬病ワクチンを認可した.この精製ふ化鶏卵細胞培養物(PCEC)ワクチンb)(RabAvert)は,Chiron Behring GmbH and Companyで製造されている.PCECの出現により,従来のワクチンに過敏な人間に対する処置の幅が広がった.

1998年の狂犬病(最新情報)

 オハイオ州では,1997年にペンシルヴァニア州西部から侵入したアライグマの狂犬病が広まり,アライグマ型の狂犬病ウイルスが各種陸生動物に感染しだしていたが,1998年についてはその報告数に減少の傾向がみられる.同州では,狂犬病の発生地域における積極的な調査プログラムと州内各地からの報告に基づく受動的な調査によって依然として監視を続けているが,今のところ明らかな拡大の徴候は認められない.オハイオ州では,1998年に入って7月までに,アライグマの狂犬病が18例(陸生動物全体では22例)確認されているが,1997年同期の49例(陸生動物全体では52例)に比べて大幅に減少している.さらに,1998年4月には,オハイオ州内の他の地域や中西部諸州へのアライグマ狂犬病の拡大を防ぐために,約355,000匹分に相当するV-RGウイルスワクチンが,4つの郡の合計1,500平方マイル以上にわたって散布されたc)
 テキサス州では,1996年と1997年に狂犬病の報告数が大幅に減少しているが(1996年に40.5%; 1997年に24.0%),1998年1月と2月にも,同州の南部・中央部・西部の66以上の郡に,42,000平方マイルにわたって,260万匹分に相当するV-RGウイルスワクチンが散布された.また,1998年1〜7月までの統計によれば,イヌ/コヨーテ型の狂犬病ウイルスによるコヨーテの狂犬病は,経口型狂犬病ワクチン散布プログラム(ORVP)の実施地域より北側では報告がなく,ORVP地域内でも2例報告されているにすぎない.同じ期間に,ハイイロギツネ型の狂犬病ウイルスによる狂犬病は,数種の動物で合計24例確認されているが,先述のORVP実施地域以外では,ハイイロギツネの症例は報告されていない.V-RGウイルスワクチンは,プログラムが開始された1985年以来,総計140,000平方マイル以上の地域に860万匹分に及ぶ量 が散布されているd)>.
  なお,人間の狂犬病の症例については,1998年9月30日までの時点で,米国内からCDCに届いた報告はない.
(米国獣医師会雑誌 Journal of the American Veterinary Medical Association,Vol. 213,No. 12から)

a) Hunter JL, North Carolina Department of Health, Raleigh, NC : Personal Communication, 1998.
b) RabAvert, Chiron Behring GmbH and Company, Emeryville, Calif.
c) Smith KA, Ohio Department of Health, Columbus, Ohio : Personal Communication, 1998.
d) Wilson PJ, Texas Department of Health, Austin, Tex : Personal Communication, 1998.

[ 目次に戻る ]