馬ウイルス性動脈炎(届出・海外)
概要
 本症は、馬科動物特有のウイルス性の全身感染症で、生殖器ならびに呼吸器を介して馬から馬へと接触伝播する届出伝染病・海外伝染病です。常在地では不顕性または比較的軽症に経過する例が多いのですが、生産牧場で発生すると妊娠馬に流産が高率に起こり、競馬場では競走馬に呼吸器疾患を起こして競馬開催に影響を及ぼすこともあるので、経済的損失は少なくありません。わが国は清浄国です。
主な原因
 本症の発生源は生殖器にウイルスが持続感染した種雄馬で、繁殖シーズン中に交尾あるいは人工授精によって繁殖雌馬に感染します。発病した繁殖雌馬は鼻汁中にウイルスを排出するので、周囲の馬が呼吸器を介して感染し、流行形態を示します。体内にウイルスを保有している種雄馬は外見的には健康なため、馬群に潜みやすく毎年繁殖シーズンのたびに発生源となります。また、感染馬の尿中にも比較的長期間ウイルスが排出され、流産胎盤や胎子にも多量のウイルスが含まれるので、感染源として注意しなければなりません。
主な症状
 本ウイルスの経鼻感染実験では、潜伏期は1〜6日、野外発生例では3〜14日、野外の生殖器感染例では6〜8日です。症状は多様で、発熱、元気消失、食欲不振、鼻汁漏出、流涙、結膜炎、眼瞼の浮腫、黄疸、下痢、下顎リンパ節の腫大、四肢、特に後肢下脚部の浮腫、頸部から肩部への発疹、幼駒の死亡、陰嚢あるいは包皮の腫脹および流産がみられますが、これらすべての症状が同一馬で観察されることはありません。予後は比較的良好で、一般的に発病後2〜4週間程度で回復しますが、雄馬ではウイルスが生殖器に持続感染して体内にウイルスを保有することがあります。
主な予防法
 弱毒生ワクチンと不活化ワクチンがあり、わが国では不測の侵入時に備えて、不活化ワクチンが備蓄されています。その他の予防対策として、繁殖シーズン前に体内にウイルスを保有している種雄馬の摘発と人工授精では汚染精液に注意することが大切です。わが国のような清浄地では、検疫の強化と輸入種雄馬やそれらの交尾繁殖雌馬を監視することが必要です。