炭疽(法定)
概要
 本症は、急性敗血症を呈する法定伝染病であり、人獣共通感染症でもあります。
主な原因
 本症の原因は炭疽菌です。本菌は、芽胞の状態で土壌中に10年以上も生存するため、破傷風菌とともに土壌病の代表的菌種です。わが国での発生は比較的まれで、年間10頭以下の散発的な牛の発症例が報告されています。また、本症は人や犬にもみられます。草食獣は本症に感染しやすく、肉食獣や雑食獣での感染は比較的まれです。
 感染経路は、主に傷創面からの皮膚炭疽を起こす経皮感染および腸炭疽を起こす経口感染であり、肺炭疽を起こす呼吸器感染も認められます。本症は土壌病であり、感染率は低いのですが、高い致死率を示します。また、夏期には発生率は増加する傾向がみられます。なお、土壌中の芽胞は数10年以上も生存するため、本症の発生には地域性が認められています。
主な症状
 潜伏期は1〜5日です。全身感染を起こした場合は、41〜42℃の突然の発熱を主徴としますが、経過が甚急性・急性であるため、生前診断は困難です。本症では可視粘膜は充血して青黒くなり、結膜浮腫、流涙などがみられます。人では経皮感染部位に膿疱ができる皮膚炭疽になることがありますが、動物ではまれです。咽喉頭部からの感染で、喉頭炎を起こし、浮腫と扁桃の充出血、耳下腺や顎下腺の腫脹がみられます。水様性・粘液性・血液性鼻汁の排泄、流涎、呼吸困難、喘鳴などを示すこともあります。消化器感染でははげしい痛みや粘血便がみられます。妊娠馬では流産、泌乳停止、黒褐色の尿となる血色素尿などが認められることもあります。予後はきわめて悪く、ほとんどが死亡します。
主な予防法
 炭疽生ワクチンが馬ならびに牛を対象に用いられています。また、発症が認められた場合には、死体、乳汁、敷きわら、厩舎などの処理は「家畜伝染病予防法」に記述された方法に基づいて行われます。炭疽菌は芽胞菌なので、その消毒には高圧蒸気滅菌、塩素剤、ヨード剤などが用いられます。
 発症動物と同一の厩舎で飼養された動物に対する予防的措置として、ペニシリンやストレプトマイシンの大量投与、抗血清の投与などが行われます。