狂犬病(法定・海外)
概要
 本病は、狂犬病ウイルスの感染によって起こる最も恐ろしい人獣共通感染症の一つです。ウイルスが神経組織内で増殖して中枢神経を冒し、発症すれば重篤な神経症状を伴ってほぼ100%死亡する高致死率の疾病です。法定伝染病・海外伝染病に指定されています。
主な原因
 本病の主な感染経路は、感染動物の唾液に含まれるウイルスの咬みきずからの体内侵入ですが、気道感染や胎盤感染もあります。ほとんどの哺乳動物が本病に感染しますが、感受性に差があり、きつね、狼、あらいぐまなどの野生動物は感受性が高く、人、犬、馬、牛およびめん羊は中等度の感受性です。流行様式には、都市部の犬や猫を中心に流行する都市型と、森林の野生動物の間で流行する森林型があります。
 わが国では1957年以降本病の発生がなく、清浄状態を長期間にわたり維持しています。2000年以降は「狂犬病予防法」に基づく輸出入検疫対象動物として、従来の犬に加え、猫、あらいぐま、スカンクおよびきつねの検疫が行われています。
主な症状
 潜伏期はウイルス侵入部位により、7日〜3ヵ月と不定ですが、感染動物は狂躁型か麻痺型のいずれかの症状を示しますが、80〜85%が狂躁型です。狂躁型は、瞳孔散大、流涎、異常な吠えと咬みつき、落ち着きをなくして興奮し、腹部を緊張させてはげしい腹痛症状を示し、低い声でうめくようになります。また、攻撃的で、人や物を咬んだり蹴ったり、性欲亢進、流涎過多などの興奮状態が5〜8日間続き、さらに運動失調、下顎下垂、脱水、意識不明の麻痺状態が1〜2日間続いた後、死に至ります。麻痺型は、声帯の麻痺による奇妙な声および咽喉頭筋の痙攣による嚥下困難・嚥下不能がみられます。さらに、下顎の下垂、流涎、運動不能などの全身麻痺が3〜6日続いた後、死に至ります。
 発病の3日前ごろから唾液中にはウイルスが排泄されるので危険です。
主な予防法
 本病の防除対策としてワクチンの有用性は高く、感染予防と発病阻止の目的で使用されます。ワクチンには不活化ワクチンと弱毒生ワクチンがあり、野生動物には経口ワクチンが開発され、弱毒やワクチニアウイルスを媒介体とした遺伝子組換えワクチンが欧米で効果をあげています。
 人の場合は暴露後免疫やガンマーグロブリン、インターフェロンなどの併用法がありますが、動物は治療しないで殺処分します。