ピロプラズマ病(一部法定)
概要
 本病は、赤血球に寄生する原虫病で、吸血昆虫が媒介する疾病です。牛、馬、しか、めん羊、山羊などに発生がみられ、高熱、貧血、黄疸などの全身症状と一部の症例では黒褐色の尿である血色素尿を呈します。しかでは、バベシア ビゲミナ、バベシア オビスによるバベシア病およびタイレリア パルバ、タイレリア アニュレータによるタイレリア病は法定伝染病として取り扱われています。
主な原因
 ピロプラズマは赤血球内に寄生する原虫で、しかではバベシア ビゲミナ、バベシア ボビスおよびタイレリア パルバ、タイレリア アニュレータ、めん羊および山羊ではバベシア モタシ、バベシア オビス、タイレリア オビス、タイレリア ヒルシがその原因とされています。なお、原因となる原虫の種類によって、発生場所が異なっています。バベシア ビゲミナはオーストラリア、台湾および沖縄での発生が確認されています。過去に、山梨県および北海道でめん羊のピロプラズマ病の発生がありましたが、現在はみられません。
主な症状
 バベシア ビゲミナおよびバベシア ボビス感染症: 40〜42℃の高熱、貧血、黄疸、血色素尿、胃腸障害、心衰弱および生産性の低下を示します。わが国のような清浄地区では、感染後急性に症状が進行し、8〜10日で原虫が流血中に現れます。感染動物のうち50〜90%のめん羊・山羊は横臥、食欲廃絶および呼吸困難の症状を示し、発症後数日で死亡します。甚急性に経過するものでは、原虫が増殖して貧血する前に死亡します。バベシア ビゲミナに比較してバベシア ボビスの症状はやや軽いです。
 バベシア モタシおよびバベシア オビス感染症: 40〜42℃の高熱、貧血、黄疸、食欲減退、筋肉の振戦、後躯麻痺などがみられ、急性例では、便秘から下痢となったり、血色素尿から血尿になることもあります。バベシア モタシは寄生後7〜10日で発症し、死亡率はおよそ20%です。
 タイレリア パルバ感染症: 病原性は他のタイレリアに比較して最も強く悪性です。感染後10〜14日でリンパ節の腫大と発熱がみられます。その後2〜3日で赤血球内に原虫がみられ、最大で全赤血球数の90%以上に寄生が認められます。しかし、貧血はなく、体表リンパ節の腫大、呼吸困難およびタール状の下痢便を伴ない急性経過をとって死に至ります。
 タイレリア アニュレータ感染症: 高熱とビリルビン尿の排泄が特徴です。加えて下痢または便秘、眼球突出、全身の脱力、ときに神経症状を呈し急性または慢性経過で死亡します。
 タイレリア オビス感染症: 感染後9〜13日で発症し、症状は5〜16日間継続しますが死に至ることはありません。軽い貧血に伴う一般症状がみられるのみで、黄疸および血色素尿はみられません。
 タイレリア ヒルシ感染症: 貧血および黄疸が強く血色素尿がみられます。感染により40〜100%が死に至ります。慢性型で耐過したものは、終生免疫を獲得します。
主な予防法
 ピロプラズマ病に対する原因療法として、殺原虫剤が用いられます。また、対症療法として輸液や強肝剤、栄養剤などを応用しますが、特に輸血は貧血の改善にきわめて有効です。
 予防法としては、媒介ダニの撲滅を優先する必要があります。低毒性有機リン剤などのダストバッグの応用、イベルメクチン製剤の定期的な投与、ピレスロイド系殺虫剤を含有したイヤータッグの装着などが、媒介ダニの駆除に有効です。また、放牧初期のストレス軽減を目的とした予備放牧は重要です。