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意見(獣医学系大学生の声)

動物法医学の開拓を目指して

青島圭佑 (北海道大学獣医学部獣医学科4年)

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 私を含めて多くの人は,大学入学前には獣医師というと臨床獣医師を強くイメージしていたと思う.動物たちの命を救いたいから獣医師を目指したり,ただ単に動物が好きだから獣医学部に進学したという方が多いであろう.かくいう私は,臨床に進みたいという気持ちもあったし,獣医師になれば興味のある仕事がみつかるかもしれない,というなんとも曖昧な気持ちで入学したのを覚えている.学部に入ってから獣医師の仕事の幅広さやその必要性を知り,急に選択肢が広がったことで自分が将来どんな仕事に就きたいのか,ぼんやりと考えながら生活していた.
 私は現在4年生であるが,ある程度自分の夢というものが具体的になってきた.私は将来,動物の法医学について学びたいと思っている.授業やテレビ・新聞等で動物に関する事件や訴訟について何度か見聞きした.それは医療過誤であったり,人間による虐待であったり,聞くのも辛いものばかりであった.もちろん動物が被害者になるケースもあれば動物が加害者になるケースもあるだろう.誤って人を噛んでしまった場合,脅えて反撃のために噛んだ場合や飼い主にけしかけられて噛んだ場合など色々なケースが考えられる.人には法医学というものがあり,医療事故においては医学鑑定がある.犯罪等が起こった場合にも司法解剖や行政解剖といった措置がとられる.しかしながら動物に関する事件や訴訟においてはそうした体制がとられていない.死後すぐであれば剖検を行うことができるが,死後,時間が経過した後では死因もわからなくなってしまう.裁判官や弁護士で獣医学に明るい人は非常に少ないと思う.訴訟という事態に発展することは良いことではないのかもしれないが,起きてしまった場合に公平な判決の手助けになれるような動物の法医学が必要だと私は考えている.
 動物の法医学が役立つのは何も裁判に限った話ではないと思われる.野生動物や動物福祉,今話題になっている人と動物の共通感染症についても関係してくるであろう.野生動物の変死体が発見された場合,当然だが良い状態とはいえない.腐乱状態であったり,他の動物に食べられて体の一部が欠損していることもある.これでは,現在の病理学では死因を特定するのは非常に困難である.希少な野生動物が命を落とした場合,なぜ死に至ったかという理由が重要になってくる.自然死,中毒死,感染症による死,あるいは誰かが命を奪ったかもしれない.それを明らかにするためにも,ペットや家畜だけではなく野生動物保護の面でも動物の法医学は重要だと思う.
 このような分野に興味を持ったのは,今後必要になってくる学問であることと,新しい学問に挑戦してみたいという気持ちがあったからだ.私は開拓の歴史をもつ北海道で育ち,小学校や中学校ではよく「開拓」や「フロンティア精神」といった言葉を聞いて育った.また,自分の性格として人がやっていないことをやってみたいという気持ちがあり,そうしたことも影響していると思う.未開拓の分野に挑戦するとともに,その礎を築き,現在困っていたり苦しんでいたりする人々や動物達を救うことができ,後世に役立つことができれば本望だと考えている.動物の法医学の研究が盛んになることで,人の法医学とも知識を共有し,動物が関係する事柄に関して相乗的に知識を深めていければ,動物達だけでなく人間社会にも多大な恩恵をもたらすことができると信じている.
 このたびの執筆を通じて自分の「夢」が曖昧なものではなくしっかりとした「目標」に近づいたと感じている.しかし,今現在この夢を実現するために私自身何をすれば良いかわかっていない.行き先は分かってはいるものの,どのような道のりを歩めば良いのかわからない状態である.今後は具体的に歩むべき道を探し,一歩一歩進んで行こうと考えている.中途半端なことはせず,やると決めた以上しっかり先を見据えて邁進していきたいと思っている.




† 連絡責任者(担当教官): 梅村孝司(北海道大学大学院獣医学研究科)
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