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診療室

ムシ(外部寄生虫)との遭遇

海蔵一泰 (オアシス動物病院院長・宮崎県獣医師会会員)

 私は宮崎県の山間にある小林市で開業している.緑豊かな霧島山系の麓に位置し,空気はおいしく,透き通った湧水などとにかく自然がいっぱい.それだけに小林市周辺は外部寄生虫(ムシ)の宝庫でもある.犬も猫もそして人間もムシに苦しめられている.そんな彼らとの記憶に残った「ムシとの遭遇」について紹介させていただきたい.
 開業当初に遭遇した可視粘膜蒼白,体温39.8度,ダニ寄生の症例.経験したことのある臨床獣医師の方々はお分かりのことと思うが,バベシア症である.今から思えば最初に疑うべき疾病であったが,わたしは関東で勤務していたため,九州にはバベシア原虫の感染症があるらしいといった程度の情報しか持っていなかった.貧血,黄疸があり,血小板も少ないし,まさかエバンス症候群ではないだろう.このようなときは難しい病名が真っ先に頭に浮かぶ.しかし,血液塗抹標本を見ると,赤血球中に異物が認められる,これがバベシア症か.治療薬はすでに販売が中止されている.治療はどうしたら良いのか.これがムシとの最初の出会いであった.このときは大学の先輩に薬剤を分けてもらい事なきを得た.それからこのムシとは毎年そして今後もずっとお付き合いするであろう.バベシア前線は今,北上中とのこと,関東以北の臨床獣医師の方々も,そのうちこのムシと遭遇するかもしれない.
 次の症例は,「先生,猫の皮膚にオレンジの粉が付いている! これ何ですか?」という主訴から始まった.さて何だろう.花粉でもつけてきたのかな.セロハンテープでとって鏡検すると,ダニらしい.しかし,通常ダニの足は4本であるのに3本しかない.外部寄生虫アトラスを引っ張り出し写真とにらめっこ.そうか,これがツツガムシか.ツツガムシがオレンジ色とは知らなかった.後で周辺の獣医師に話したところ,知らなかったのは私だけだった.それ以降,ツツガムシとも長い付き合いになってきた.地元では人のツツガムシ病がしばしばみられるそうである.
 最近,冬になっても「マダニ」が寄生していたり,蚊をみかけたりする.ダニ・ノミそしてフィラリア予防もそのうち通年投薬になるかもしれない.これも地球温暖化によるものなのかと感じている.外部寄生虫には過ごしやすいのかも知れないが,この先どうなるのだろうと一抹の不安を感じてしまう.このままでは宮崎は今以上のムシのパラダイスになってしまいそうである.
 もし,外部寄生虫に興味がある方がいらっしゃれば宮崎に遊びに来てはいかがだろう.ムシたちとの新しい出会いがあるかもしれない.



海蔵一泰  
  ―略 歴―

1999年 北里大学卒業
同 年栃木県栃木市の動物病院にて勤務
2003年 宮崎県小林市にてオアシス動物病院を開業
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† 連絡責任者: 海蔵一泰(オアシス動物病院)
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