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総 説


 9 法律上の取扱い
 国内では,家畜ブルセラ病については家畜伝染病予防法で,人ブルセラ症については感染症法でそれぞれ対策が取られている.また,病原体については2007年6月1日より,感染症法でその所持・保管,輸送等が厳しく制限されている.
 (1)家畜伝染病予防法
*家畜伝染病予防法及び施行令(法第二条第一項,政令第一条)によりブルセラ病(対象動物:牛,めん羊,山羊,豚,水牛,しか,いのしし)は家畜伝染病に指定されている.
*患畜または疑似患畜を発見したときは,診断した獣医師は,定められた事項(省令第二十二条)について都道府県知事に届け出なければならない(法第十三条第一項).
*都道府県知事は所有者に対して,当該家畜の殺処分を命ずることが出来る(法第十七条第一項).また,患畜または疑似患畜の死体の所有者は,当該死体を焼却し,または埋設しなければならない.
*法第五条第一項の規定により,少なくとも五年ごとに省令別表第一の検査方法(急速凝集反応,必要に応じて試験管凝集反応,補体結合反応)で,省令第九条第二項に規定された牛(搾乳牛,種雄牛,同居牛など)の検査をしなければならない(省令第九条第一項).
  注:ブルセラ病の犬は対象外のため,家畜伝染病予防法上の処置を受けない.
 (2)感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)
*感染症法及び施行令(法第六条第五項,政令第一条)によりブルセラ症は四類感染症に指定されている.ゆえに,診断した医師は届出基準に基づいて,最寄りの保健所長を経由して直ちに都道府県知事に届け出なければならない(法第十二条).
*感染症法及び施行令(法第六条第二十一項,政令第二条)により,Brucella melitensisB. abortusB. suisB. canisが三種病原体に指定されている.よって,これらの所持には厚生労働大臣への届出が必要であり,また,取扱施設が三種病原体等取扱施設基準を満たしている必要がある(法第五十六条の十六及び二十四,省令第三十一条の十七及び二十九).
*病院や病原体等の検査を行っている機関が,業務に伴い三種病原体を所持することになり,滅菌譲渡をするまで所持することになった場合は届出は不要である(法第五十六条の十六).ただし,定められた基準(十日以内に滅菌する,もしくは遅滞なく譲渡しをする,など)に従う必要がある(省令第三十一条の十八).
  注:(例)動物病院等で,犬ブルセラ病の検査として,分離・培養を実施した.その後,コロニーが得られたので,これを外部機関で同定したところB. canisであった.この場合,菌を動物病院等で所持していれば,法の対象となり,上記項目(取扱施設基準を満たす施設があり,所持する場合は届出.施設がない場合は十日以内に滅菌する,もしくは遅滞なく譲渡し)に従う必要がある.ただし,生菌株の輸送については公安委員会への届出など,特別な輸送体制が必要となる.菌がB. melitensisB. abortusB. suisの場合も同様である.



引 用 文 献
[1] Brucellosis in humans and animals. WHO/CDS/EPR/2006.7.
(http://www.who.int/csr/resources/publications/deliberate/WHO_CDS_EPR_2006_7/en/
[2] Pappas G, Papadimetriou P, Akritidis N, et al : The new global map of human brucellosis. Lancet Infect Dis, 6, 91-99 (2006)
[3] 今岡浩一他:ブルセラ症(2007年3月31日現在),病原微生物検出情報,国立感染症研究所,厚生労働省健康局,28,227-228(2007)(http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/330/kj3302.html
[4] Greene CE, Carmichael LE : Canine brucellosis, Infectious diseases of the dog and cat, Greene CE ed, 3rd ed, pp369-381, Elsevier Inc, Canada (2006)
[5] 山内忠平,鈴木達雄,野村達治 他:ビーグルの繁殖コロニーに発生したイヌブルセラ病について,日獣会誌,36,175-192(1974)
[6] 伊佐山康郎:犬のブルセラ症,獣医畜産新報,47,97-101(1994)
[7] Kimura M, Imaoka K, Suzuki M, et al : Evaluation of a microplate agglutination test (MAT) for serological diagnosis of canine brucellosis, J Vet Med Sci, 70, 707-709 (2008)
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[9] Munford RS, Weaaver RE, Patton C, et al : Human disease caused by Brucella canis. A clinical and epidemiologic study of two cases, JAMA, 231, 1267-1269 (1975)
[10] Skalsky K, Bishara J, Pitlik S, et al : Treatment of human brucellosis : systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials, Br Med J, 336, 701-704 (2008)
[11] 愛玩動物の衛生管理の徹底に関するガイドライン2006―愛玩動物由来感染症の予防のために―,厚生労働省健康局(2006)(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/02.html#2
[12] 人と動物の共通感染症に関するガイドライン(平成19年3月),環境省自然環境局(http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph.html



† 連絡責任者: 今岡浩一(国立感染症研究所獣医科学部第一室)
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