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地方会だより

兵庫県獣医師会が運営する夜間救急動物病院

廣瀬孝男 (兵庫県獣医師会理事・夜間動物病院運営委員長)

伊藤伸彦
 平成17年7月25日,社団法人である獣医師会の固有の事業として,動物福祉に尽くすと同時に獣医師会会員である開業者の夜間診療の負担を軽減させることを主目的に,兵庫県獣医師会夜間救急動物病院(夜間病院)は開設された.ことの始まりは,狂犬病予防注射と犬の登録事業が県と保健所法政令市事業から市町村事業へ転換されたことを機に,狂犬病に関する事業を獣医師会から分離し,各支部の自主性を重んじた改革を進めたことに遡る.その際,獣医師会としては代替となる公益的な新事業を検討する必要に迫られた.夜間病院はそのような中で生まれた構想によるものである.
 夜間病院の具体的な建設運営計画が本会理事会の承認を得たのは平成14年12月であったが,さまざまな紆余曲折を経て開院に漕ぎ着けるまでおよそ2年半を要した.その間の経過を振り返ってみると,いくつかの乗り越えなければならない壁があった.まず一つ目の壁は,兵庫県獣医師会の事業である夜間病院として,公益法人を指導監督する兵庫県の認可を得ることである.後述するような診療体制や周囲に夜間救急を対象とした動物診療施設が無いといった周辺環境など細部を確認ののち,節度ある診療料金や収益の50%以上を公益事業に供出するなどの制約を設けることで,兵庫県は夜間病院を収益事業と判断し社団法人の事業として認めるに至った.次の壁は夜間病院の建設場所の問題であった.[1]交通の便がよい.[2]夜間,近隣への迷惑がかからない.[3]神戸市以外の場所に開設する.それらの条件に見合う候補地が上がるたびに,当時の準備委員が現地に赴き調査を行ったが決定打に欠け,最終的には不動産業者の紹介物件を賃借することで落ち着いた.国道2号線に面し,周囲の民家からは100m以上離れており,何より自動車専用道路のインターチェンジから400mの距離にあることが最大の決め手となった.さらなる壁は夜間病院の建設費用の問題である.永年蓄積してきた基本財産から6,000万円を取り崩す案が理事会で承認されたが,建物の建築費と医療機器の準備等をこの範囲以内で納める必要があり,妥協しなければならないことが次々に生じてきた.理想的と思われた建設場所も上下水道の配管接続位置が遠く,予期せぬ出費に悩まされることになった.そのような中で,本会の支部組織より1,000万円に近い医療機器の現物寄贈があり,大いに救われた.
 夜間病院は事業の公益性を踏まえて,診療費・診療内容を設定するとともに,社会から真に信頼される獣医療の提供に努めることを標榜している.また,夜間救急には該当しないワクチン接種,フィラリア予防,避妊・去勢手術,一般骨折手術はじめ緊急性の無い外科手術は行っていない.さらに,診療後には必ず主治医の元に返すことを原則とし,飼い主に事後の診療について理解を求めるとともに,主治医には診療内容をFAX等で速報している.診療時間は午後9時より翌日の午前2時までとしているが,重篤な動物は主治医の元に返すまで預かり,時間にかかわらず手当を継続している.夜間病院は年中無休を堅持し,日々の診療には常に獣医師2名,動物看護士2名以上を配属する必要から,夜間病院の担当職員は正職員として獣医師2名,動物看護師3名を雇用し,また,若干名の非常勤の獣医師,動物看護師を雇用している.
 夜間病院の運営は,現在は主に運営委員会が行っているが,開院当初は県獣医師会会長直下の組織として位置づけ,当時の運営委員長が招集した夜間病院の医長を含む8名,のちに9名の開業部会員で構成していた.夜間病院は獣医師会が経営母体であり,体外的にはもちろん体内的にも理解を求めなければならず,加えて日々発生するであろう諸問題に即座に対応する必要があるなどの理由で,運営を担う組織には小回りとある程度の決裁力が要求されたからである.実際に週1回,運営委員会を開催し問題解決に努力してきた.第12回運営委員会からは県獣医師会会長と事務局長の参加を得て,さらなる迅速な対応を心がけてきた.開院から5カ月経過した頃から山積していた問題の多くが解決,整理されてきたので,運営委員会も2週に1回,月に1回と間隔を空けて開催されるようになった.そして平成19年5月をもって運営委員会は一旦解散し新たな運営委員会が発足した.現在では,本会の内部組織として9〜10名で構成する運営委員会と,その上部機関である5名の委員から成る経営委員会が夜間病院の運営にあたっている.なお,運営委員会は開業部会員で構成され,本会の委託を受ける形で日々の経験を生かし,職員人事を含む的確な病院運営に努めている.また,経営委員会は本会の理事であり開業,畜産,団体,衛生等の職域代表者でもある会員で構成され,大所高所から病院経営を管理している.このように,本会の全組織をあげての事業として夜間病院の体制を整備してきた.開院から3年が経過した現在,診療件数,収入ともに年々増加していることから,夜間病院の存在が評価されてきていると確信している.今後も,夜間病院の設立趣旨を忘れず,社会から信頼される獣医療の提供に努めていきたい.

夜間救急動物病院の外観

夜間救急動物病院の外観


兵庫県獣医師会夜間救急動物病院運営実績





† 連絡責任者: 廣瀬孝男(兵庫県獣医師会)
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