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鳥獣110番救護所活動を振り返って
藤野嘉雄† (みなはるペットクリニック院長・大分県獣医師会会員)
大分県獣医師会では,事故等により傷付いたり病気にかかり自力で生存できない野生鳥獣(以下「傷病鳥獣」という)の保護,治療技術の確立と県民への鳥獣保護思想の普及啓発を図ることを目的として,大分県から業務委託を受け,「大分県鳥獣110番救護所設置事業」を会員及び民間ボランティア等の協力を得て効果的に実施している. 当院も大分県獣医師会から指定を受け,鳥獣110番救護所として傷病鳥獣の治療活動に携わり10年になる.きっかけは前任の獣医師が市外へ移転したためお鉢が回ってきたのだが,始めてみると驚いた.見たこともない野鳥,知っていても初めて触る獣類が次から次へと運び込まれてくる.入院室は小さな動物園よりもにぎやかである.救護した鳥類は,ハト,スズメ,ツバメ,シギ,ムクドリ,カラスなどが大半を占めるが,ヒヨドリ,ツグミ,カワセミ,メジロ,ヒワ,モズ,シジュウカラ,ヒレンジャク,ウグイス,ホオジロ,イワツバメ,トラツグミ,ヨタカ,オオルリ,アオサギ,ゴイサギ,ヒレアシシギ,カモメ,カモ,カイツブリ,バン,フクロウ,コノハズク,アオバズク,トンビ,ノスリ,ハヤブサ,ソウシチョウなど多岐にわたる.哺乳類はタヌキ,野ウサギ,イタチ,イノシシ,サル,コウモリなどである.傷病事例としては,脚に釣り糸がからまっていたカイツブリ,巣から落下したウグイス,ムクドリのヒナ,全身にとりもちが着いて飛べなくなったムクドリ,列車にはねられたトンビ,飼い猫に捕まったハト,防鳥ネットにからまったハト,窓ガラスにぶつかったスズメ,工場構内でタールが全身に付着したシギ,カラスに襲われたフクロウ等の鳥類,車にはねられたタヌキ,野ウサギ,イノシシ,サル,ワナにかかったためと思われる後肢欠損のタヌキ,また,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」違反の証拠品として警察に保管を依頼されたオオルリなど様々である. 台風やカラスに襲われた他はほとんどが人為的な原因である.人間の無軌道な宅地造成や郊外型商業施設の建設,それに伴う道路の拡充や高速道路の延長による自然環境の分断等が遠因であることに間違いはない.「私は,獣医師として自然をないがしろにした乱開発に断固反対する」と言えば体裁がいいのだが実際は自分自身その開発によって恩恵を受けている一人でもある.幸い車の運転中に鳥をはねたりタヌキやイノシシを轢いたことはまだないが,いつ我が身に起こるかは分からない.自分にできることは,不幸にも人間社会あるいは我々の身勝手な行動の犠牲になって運び込まれた傷病鳥獣の治療しかない. ほとんどの傷病は外傷性なので整復処置,骨折していれば外内固定の整形,抗生剤の投与,そして強制給餌等が治療の中心となる.治癒後,自力採食ができるようになれば自然に放すのだがウサギやタヌキはその際,必ず振り返って一礼(?)をして帰ってゆく.これは事実である.鳥は放すと一気に飛んで行くのだが,困るのはヒナから育てたハトやカラスの場合である.懐いてしまっていつまでたっても飛ぼうとしない.知らん顔をして離れ,遠くから見ているとやがて飛び去ってゆく.少しつらい. この活動を通じて大分の自然の豊かさを改めて認識させられた.大分の獣医師としてこれからもこの活動は続けていくつもりだが,傷病鳥獣には来て欲しいような来て欲しくないような複雑な気持ちである. |
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† 連絡責任者: | 藤野嘉雄(みなはるペットクリニック) 〒870-0131 大分市皆春307-8 TEL 097-527-7155 FAX 097-527-7239 E-mail : yykma307@luck.ocn.ne.jp |