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診療室

獣医療におけるセカンド・オピニオンとは

船津敏弘 (ハーレー動物病院院長・福岡県獣医師会会員)

 セカンド・オピニオンについて私は誤解していた.恥ずかしながら,私はセカンド・オピニオンとは,最初にかかった病院に不満や不信感があるときに,病院を変えることだと思っていた.しかし,買い物をするように,漠然とよりよい医療を求めて病院を次々に変えることは「ドクターズ・ショッピング」と言うそうである.

 1 セカンド・オピニオンとは
 本当の意味のセカンド・オピニオンとは,別の治療法を勧める獣医師を探すことではなく,勧められている治療法が,標準的なものとして飼い主自身が納得できるものなのかどうか確認するために行われるものとされている.
 たとえば,セカンド・オピニオンにおいては飼い主から次のように質問される.「今かかっている病院では,手術が必要と言われているのですが,先生はどう思われますか?」,「今かかっている病院では,Aの薬を勧められていますが,先生はなぜBの薬がよいと思うのですか?」など,主治医(今かかっている獣医師)から示された診断や治療方針について,別の獣医師に意見を聞くことがセカンド・オピニオンなのである.最終的にどうするかを決定するのは飼い主自身であるから,我々獣医師は飼い主の選択肢を広げるアドバイスをするに留めなければならない.「手術なんてありえない」,「その診断は間違っている」などと言うのではなく,「手術以外の選択肢としては,この投薬もあります.その長所と短所は○○です」,「可能性のある診断としては,他に○○や△△なども検討してみる価値があるのではないでしょうか」などに留めるべきである.そして,飼い主はセカンド・オピニオン医の意見を聞いた上で,主治医のもとに帰り,もう一度主治医と相談するのが原則である.
 近年,動物の寿命が延びて慢性疾患が増えてきたこと,獣医学の進歩によりさまざまな治療法が開発されてきたこと,飼い主の治療に対する要望が多様化してきたことなどによって,一人の獣医師の意見だけでなく,複数の獣医師の意見を聞いて,治療方針を決めるセカンド・オピニオンの必要性はますます高まってくるのではないだろうか.

 2 紹介システムとセカンド・オピニオン
 これまでもセカンド・オピニオンと類似したものとして紹介システムというものがあった.これは主治医の手に余る症例を,より経験の豊かな獣医師や専門医・大学などに主治医自らが紹介するシステムである.セカンド・オピニオンが飼い主側からの自発的な希望なのに対して,紹介システムは獣医師側からの提案である点が大きく異なっている.紹介システムはCTやMRIなどの高度診断装置の普及や大学病院の充実などによって,飼い主にとってもはっきりとそのメリットを認識でき,定着しつつあるように思う.しかしその反面,距離的な問題などから,すべての飼い主がその恩恵を受けることができるわけではない.また,主治医のもとで最後まで診察を希望する飼い主にとっては,紹介されるということは見放されたような印象を受けるケースもある.
 その点,セカンド・オピニオンは飼い主側からの自発的な希望であり,ある意味飼い主の権利であるとも言えるだろう.
 この2つのシステムの違いを,飼い主はもとより獣医師もきちんと理解していないと,「たらい回し」と言われるような不幸なトラブルに発展することもある.それを避けるためにも飼い主はもとより,獣医師に対してもきちんとした教育・指導が必要になっているのではないだろうか.

 3 セカンド・オピニオンの問題点
 適切にセカンド・オピニオンを得ることによって,これまでとは違った診断・治療の可能性が広がり,主治医と同じ意見が得られれば,飼い主も安心して主治医に治療を任せることができるようになる.このようにセカンド・オピニオンには大きなメリットがある.
 しかし,その一方では以下のような獣医師側の問題点もある.
 (1)セカンド・オピニオンという概念を持たない獣医師がいること
 本誌において私の調べた範囲では,2004年に岡本有史先生がセカンド・オピニオンに触れたのに始まり,2005年に佐藤喜隆先生と佐藤 隆先生が,2006年には鷲巣月美先生がセカンド・オピニオンについて紹介されている.しかし,セカンド・オピニオンについて正確に知り,実行できている獣医師がいったいどれくらいいるのだろうか.
 飼い主からセカンド・オピニオンを得たいためにこれまでの資料がほしいと依頼された時に,転院と誤解して気分を害したり,紹介状や飼い主に渡すデータをうまく準備できなかったりしたことはないだろうか.獣医師側にもう少しセカンド・オピニオンに対する教育とトレーニングが必要なのだと思う.そして,獣医師会において全国共通の紹介状フォーマットや添付データフォーマットを準備できれば,獣医師だけでなく飼い主も安心するのではないだろうか.
 (2)セカンド・オピニオン医が極めて少ないこと
 人間の医療の場合には,セカンド・オピニオン医として専門医の存在が重要視されている.しかし,獣医療の場合には未だ公的な専門医制度はないし,二次医療施設の多くは紹介症例しか受け付けないシステムのところが多いようである.少なくとも,二次医療施設においてはセカンド・オピニオンを受け入れるシステムを作る必要があるのではないだろうか.

 4 さいごに
 セカンド・オピニオンのような新しい概念が世に出てきた時には,私たち専門職が一般市民に対して早期に正しい道筋を示す必要がある.しかし,その啓蒙が遅れるほど,誤った方向へ,そして獣医師にとって不利な方向へ社会の通念が出来上がってしまうだろう.それを防ぐためには,獣医師会がリーダーシップをとって,セカンド・オピニオンの明確な定義を一般にも公開し,それぞれの地域で適確にセカンド・オピニオンを行える獣医師を早急に養成する必要があるように思う.
 このようにして,セカンド・オピニオンが理解され実践されれば,それが獣医療倫理の向上にもつながり,併せて私たち獣医師同士の無用の争いを避ける一助にもなるのではないだろうか.



船津 敏弘  
  ―略 歴―

1980年 鳥取大学卒業
1982年 福岡県行橋市にて開業
1987年 故小田文明院長よりハーレー動物病院を引き継ぎ
現在に至る
船津敏弘



† 連絡責任者: 船津敏弘(ハーレー動物病院)
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