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公衆衛生獣医師と全国公衆衛生獣医師協議会の活動
廉林秀規†(全国公衆衛生獣医師協議会会長)全国公獣協は,国や全国の自治体の公衆衛生部門に勤務する,4,700名余の獣医師で構成されている.平成10年に,会則を全面改正して学術団体として新生発足し,10年の節目を迎えたところである. この間,公衆衛生獣医師が相互に情報交換し,ともに自己研鑽する場として活動の充実に努めてきた.様々な課題・問題が山積する公衆衛生分野において,多岐にわたる業務に従事する公衆衛生獣医師の資質の向上を図り,協議会の目的である公衆衛生行政への寄与に,少なからず貢献してきたと自負している. さて,全国公獣協の主たる事業である調査研究発表会について紹介させていただく.この発表会には,各ブロックから推薦を受けた選りすぐりの演題がエントリーされ,全国大会で優秀と認められた演題には,国内の学会はもとより,世界獣医学大会やアジア獣医学大会への発表費用を助成している.当会を学術団体とするゆえんである. いずれの演題も日常業務の中で取組んだものであり,その発表内容は,公衆衛生分野における獣医師の活動範囲の広さと専門性の高さを証明している.今年度は19の演題の中から,行政的に有用な検査法の開発に取組んだ「リアルタイムPCR法を用いた腸炎ビブリオ生菌数の迅速測定法」,行政としては先駆的な取組みである「学校不適応傾向の児童・生徒に対するアニマルセラピーのプログラムと心理的効果」の2題が高い評価を得た.その他,と畜場や食鳥処理場における衛生管理に係る新たな取組みや疾病対策,動物由来感染症に関する基礎調査,ペット動物の愛護に係る取組み,食中毒対策等の食品衛生に係る研究等,各分野での成果が発表された.それぞれ,地域特性に即した地道な取組み,医療・農水部門等との連携が効果を発揮した取組み,そして,職員の創意工夫による業務改善の取組み等,他の自治体が大いに参考にできる内容であり,まさに会員相互の情報交換,切磋琢磨の場となった. 本年度の調査研究発表会から公衆衛生獣医師の幅広い活動の一端を紹介したが,このような多方面での活躍がある一方で,自治体における獣医師の新規採用への応募が少なく,その結果,獣医師の食品衛生等学際領域への配置や企画部門への登用が困難になるという状況が少なからず認められている. こうした傾向は,他の側面からも懸念されていたことでもある.古くは,獣医師の6年制教育への移行であり,獣医師をその専任業務に限定配置する考え方への転機となったように思う.さらに,平成13年のわが国でのBSE発生は,と畜検査に従事する公衆衛生獣医師の役割を社会に再認識させることとなったが,反面,食品衛生部門等から食肉検査部門への獣医師の配置転換を促すこととなり,新規採用で充足できないという現実的な問題から,これらが一気に表面化した結果であるとも考えられる. かつて,多くの獣医師が,公衆衛生の各分野,なかでも食品衛生部門に従事しその向上に貢献してきた.また,現に食肉検査部門では,安全な食肉の生産の観点から,と畜検査と衛生管理は表裏一体のものとして取組まれている.この一点をとっても,保健所や広域監視等の食品衛生監視業務を経験する機会の低減が,マイナス要因となることは明らかである. 公衆衛生の各分野を経験することでより視野が広くなり,企画調整を経験することで現場業務においてより柔軟に対応できる人材が育成できる.様々な経験により行政的センスを磨き,その中で専門性を発揮することこそ公衆衛生獣医師の真髄ではなかろうか. 平成18年度,農林水産省では「獣医師の需給に関する検討会」を設け審議が行われた.そのなかで,獣医師の職域偏在等の問題も議論され,昨年5月にまとめられた検討会報告書では,「全体として需給は均衡するものの,卒業生の過半数が小動物診療を希望すること等から,公衆衛生分野等の公務員獣医師の確保は今後さらに難しくなっていくものと考えられる.」としており,団塊世代の退職を目前にし,各自治体で危機感が募っている. こうした状況下においては,まず公衆衛生獣医師一人ひとりがさらなる自己研鑽に努め,専門分野は元より食品衛生等の公衆衛生各分野で実績を積み重ね,その役割を果たすことで個々に評価を得ていくことが不可欠である.全国公獣協としても,学術団体活動を通じ,引き続き会員の資質向上への支援を行うとともに,獣医学を学ぶ学生諸君に,獣医公衆衛生が社会的に重要であり,やりがいのある魅力ある仕事であることを積極的にアピールする等,公衆衛生獣医師の人材とその活躍の場を確保し,さらにその場を発展させる観点からの取組みを行う必要があると考えている.関係各位のご指導ご協力をお願いしたい. 最後に,全国大会での厚生労働省医薬食品局 加地監視安全課長による「公衆衛生行政と獣医師」と題した講演から一文を紹介する.「現在,感染症分野においては,医学と獣医学の壁を取払い対応していかなければならない状況となっており,公衆衛生分野における獣医学の重要性が大きく高まっている.我々公衆衛生獣医師は集団を対象とした獣医療を行っているといえ,こうした新たな観点からさらに発展的な貢献ができるものと考えている.」 |
† 連絡責任者: | 廉林秀規(東京都動物愛護相談センター多摩支所) 〒191-0021 日野市石田1-192-33 TEL 042-581-7435 FAX 042-584-8012 E-mail : Hideki_kadobayashi@member.metro.tokyo.jp |