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学術・教育

─ 獣医学における学位の取得(XI) ─
日本大学大学院獣医学研究科獣医学専攻博士課程について

酒井健夫(日本大学大学院獣医学研究科研究科長)

先生写真  本獣医学研究科は,首都圏内の湘南の地に設置されており,基礎研究領域,応用研究領域及び臨床研究領域を支える充実した研究施設・設備等が整い,新しい教育・研究体制と相俟って社会的にも注目されている.
 1 沿   革
 本学大学院獣医学研究科獣医学専攻は,2007年(平成19年)に創立100周年を迎えた日本大学生物資源科学部獣医学科に基盤を置いている.従って,本学大学院獣医学専攻について記述する前に,本学獣医学科創立の歴史と沿革を述べる.
 本学獣医学科は,1907年(明治40年)に創立された東京獣医学校を起源とするが,その校名は1930年(昭和5年)東京高等獣医学校,1945年(昭和20年)東京獣医畜産専門学校,1949年(昭和24年)東京獣医畜産大学となり,1951年(昭和26年)に東京獣医畜産大学と日本大学農学部が合併して,日本大学農獣医学部獣医学科(現生物資源科学部獣医学科)となった.
 本学大学院獣医学研究科修士課程(修業年限2年)は1953年(昭和28年)に,同博士課程(修業年限3年)は1955年(昭和30年)に文部省より設置が認可され,獣医学教育・研究に必要な全ての課程を有するに至った.その後,獣医師養成教育は6年制(学部4年,大学院2年の積み上げ方式)へと移行し,1990年(平成2年)には学部教育一貫6年制の完成年度を受け,大学院獣医学研究科獣医学専攻は博士課程のみとなり,修業年限は4年となった.
 本研究科が今日までに社会に輩出した学位授与者は200名に及び,過去5年間では毎年4〜5名が博士(獣医学)の学位を取得し,試験研究機関や臨床分野をはじめ多方面で活躍している.

 2 教育理念及び目標
 本学大学院獣医学研究科は,人類の福祉と生命科学の発展に貢献するという理念に基づき,優れた国際的レベルの人材を育成することを目標にかかげている.研究者や高度技術者を目指す学生,再学習を希望する社会人や国際貢献を志す人材を輩出するべく2000年度より定員を6名に増員して,教育・研究指導を行っている.

 3 教育・研究指導分野
 近年,獣医学の研究対象は,産業動物,伴侶動物,実験動物のほか,野生動物及び各種の展示動物等多岐にわたり,さらに生態系や地球環境の保全・修復にも深く関わりを持つようになっている.また,基盤分野における成果を実証し,応用獣医学を一層発展されるために,先端的な分子生物学的手法ならびに遺伝子工学的手法を駆使した高度な獣医学研究手法の開発が求められている.本獣医学専攻では,このような状況に対応した研究指導体制が整えられている.
 本研究科の教育・研究領域は「獣医比較形態学分野(獣医解剖学,獣医病理学)」「獣医比較機能学分野(獣医生理学,獣医生化学,獣医薬理学)」「獣医感染制御学分野(医動物学,獣医微生物学,獣医伝染病学,実験動物学)」「獣医疾病予防学分野(獣医衛生学,魚病学,獣医公衆衛生学)」「獣医病態制御学分野(獣医外科学,獣医臨床繁殖学,獣医内科学)」「獣医病態情報学分野(獣医臨床病理学,獣医放射線学,総合臨床獣医学)」の6分野から構成されている.平成19年度現在,教授17名,准教授8名,専任講師7名が配置されている.
 基礎研究領域を担当する獣医解剖学,獣医病理学,獣医生理学,獣医生化学,獣医薬理学の各研究室は,近年,研究器機の充実と整備に特に力を注ぎ,改修されたその研究環境は国内有数のレベルに達している.
 これらの分野での主な研究テーマは:哺乳類における各種器官の形態学ならびに形態化学;動物腫瘍に関する病理学;生殖生理学に関する基礎;ジャイアントパンダの搾乳とパンダ用人工調合乳の調整;抗腫瘍性物質の作用機序とその臨床応用等である.
 応用研究領域を担当する医動物学,獣医微生物学,獣伝染病学,実験動物学,獣医衛生学,魚病学,獣医公衆衛生学の各研究室は,「動物医科学研究センター」を中心に活発な研究活動を行っている.本センターは文部科学省によって選定された平成16年度の私立大学学術研究高度化推進事業日本大学学術フロンティア共同プロジェクト:「人獣共通感染症のサーベイランスと制御」の導入により設置されたもので,大学院学生に対して,国際的にも通用する高度な研究指導が行われている.また,本センターは諸外国との学術交流や学外機関との共同研究も盛んで,年間,多くの研究会やシンポジウムを企画開催している.
 これらの分野での主な研究テーマは:寄生虫症の免疫学的診断;哺乳動物の単球性株化細胞の樹立と細胞学的機能;スナネズミを用いた実験的レプトスピラ症;動物レトロウイルスの持続感染様式;動物のウイルス性疾患の血清疫学;狂犬病ウイルスの遺伝子解析と分子疫学;魚類の細胞性免疫機能の解析;人獣共通感染症の疫学,病態発現等である.
 臨床研究領域を担当する獣医外科学,獣医内科学,獣医臨床繁殖学,獣医放射線学,獣医臨床病理学,総合臨床獣医学の各研究室は,日本大学動物病院(ANMEC:Animal Medical Center)と2006年に新設された臨床実習・研究棟を中心に,大学院での教育・研究指導を行っている.研究活動と併せて,高度な専門知識や実践的な技術の習得が可能である.
 これらの分野における主な研究テーマは:犬の会陰ヘルニアの再建外科;犬の遺伝病診断法の確立と繁殖防止;心不全の診断と治療;犬・猫の止血凝固異常症;動物由来薬剤耐性菌の解明等である.

 4 大学院への入学方法
 獣医学研究科獣医学専攻博士課程の募集定員は6名である.毎年7月に第1期入学試験,10月に社会人特別選抜試験,及び3月に第2期入学試験と社会人特別選抜試験を実施している.応募の詳細については,本稿の末尾に記した「入学センター」へ連絡し,入学試験要項等を入手して参照願いたい.ちなみに試験科目は,一般選抜及び社会人特別選抜とも下記のとおりである.
 ・英語(外国人留学生は日本語)
 ・小論文
 ・口述試験
 最近では,一般社会人,留学生にも入学の門戸が大きく開かれており,獣医学以外の他学科出身者も入学することができる.大学院の応募に当っては,事前に所属を希望する研究室の指導教授と研究テーマ等についてよく相談しておくことが大切である.
 また,選考を経て日本学生支援機構及び日本大学奨学金制度,ティーチングアシスタント制度等の経済的支援を受けることも可能である.
 本獣医学専攻の平成19年度現在の在籍学生数は,1年生10名(内女性2名),2年生10名(内女性4名),3年生2名(内女性1名),4年生5名(内女性1名)である.

 5 学位論文の審査と学位授与
(1)課程修了認定による学位授与
 本専攻博士課程に4年間(短縮規定に該当すれば修業年限3年可能)在籍し,所定の単位(30単位以上)を修得し,学位論文の審査に合格すれば博士(獣医学)の学位が授与される.この場合,申請時には博士論文内容に係る1編以上の原著論文(筆頭著者論文)をレフェリー制度のある学会誌に発表していることが必須条件である.また,博士課程に4年間在籍し,所定の30単位を修得して大学院を満期退学した者については,1年以内に上記の条件を満たせば博士(獣医学)の学位が授与される.
(2)論文提出による学位授与
 4年以上研究活動に従事した者あるいはこれらと同等以上の学識と研究歴を有する者が,大学院研究生として1年以上本専攻に在籍し,学位(申請)論文を作成し,その審査に合格すれば博士(獣医学)の学位が授与される.この場合,審査申請時に博士論文内容に係る3編以上の原著論文(筆頭著者論文)をレフェリー制度のある学会誌に発表していることが必要である.
 なお,近年この論文提出による学位授与制度の利用は減少傾向にある.

 前述したように,本学大学院博士課程が1955年(昭和30年)に開設されて以来,平成18年度末で200名が博士の学位を取得した.平成14年度から平成18年度の5年間で課程博士20名(内女性5名),論文博士7名(内女性2名)が博士(獣医学)の学位を授与されている.
 今日では,「生涯学習」が一般社会に定着しているが,博士の学位取得に向けて「自己啓発」することもまた意義のあることであろう.

[受験に関する問い合わせ先]
〒252-8510 藤沢市亀井野1866
日本大学大学院獣医学研究科・生物資源科学部
入学センター
TEL 0466-84-3812 FAX 0466-84-3815
E-mail : nyuushi3@brs.nihon-u.ac.jp
URL : http://www.brs.nihon-u.ac.jp/gs/




† 連絡責任者: 酒井健夫(日本大学大学院獣医学研究科)
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