謹賀新年.今年は子年,正確には十干十二支の25番目,戊子(ツチノエネ)の年である.以前にも本欄に書いた記憶があるが,十干十二支つまり10個の漢字と12種類の動物とを組み合わせると120通り出来るはずであるが,不思議なことに干支の組み合わせで出来る年は60通りしかない.つまり60歳が還暦となる.お確かめ願いたい.横書きの場合まず甲乙丙丁……と10個書き,その下に子丑寅……と12個書いて行く.そして上下の組み合わせを読んでいくと甲子,乙牛,丙寅……となるが,61番目に再び甲子となる.これが還暦だ. さて十二支の動物のうちなぜネズミがトップであるかよくわからない.子供の頃,祖母から,ほんとは牛が一番であったが,牛の頭に乗っていたネズミがゴール寸前に首を突き出したからだと聞いたことがある.それくらい賢い(?)動物だと言うことだろう.このネズミがいわゆるラット(ドブネズミ,クマネズミ)の類かマウス(ハツカネズミ)なのかも不明である.でも小さい方が話としては面白い.小さくはないが,世界で最も有名なマウスはディズニーランドの人気者ミッキーマウスだろう.ミッキーマウスは今年の既製年賀はがきのデザインにも用いられている.何故ミッキーラットではなくマウスになったのか? それは英語ではラットは「コン畜生!」の類だがマウスは可愛いが理由だろう.一般にラットは害獣のジャンルに入れられ,小笠原のある島では毒餌によるクマネズミの根絶に成功したという誇らしげな記事を読んだことがある.かつてのダニ退治と同じ話だ. 最近ネズミに関する話題でなんと言っても群を抜いているのは,松浦寿輝氏の小説「川の光」だろう.読売新聞に連載されていたのでお読みになった方も多いと思う.主人公は,マウスではなく,「コン畜生」のラット,クマネズミである.クマネズミの一家,お兄ちゃんのタータと弟のチッチそれにお父さんを加えた親子3匹のネズミの冒険物語だ.これは断然面白い.話の中に著者がいや多くの一般の方が理想とする獣医師が登場する.ノリスに襲われて重傷を負ったチッチを,動物病院の田中先生が助けるのだ.普通,瀕死のクマネズミの治療を無報酬で引き受ける獣医師はまず居ないだろう.このチッチをタータとお父さんが決死の覚悟でまた奪還に行く.この小説の中での田中先生夫妻の会話には考えさせられる点が多い.ネズミの冒険物語ではあるが,決して子供向けのお話ではない.大新聞に連載されたいわゆる「新聞小説」である.まだお読みでない方は,単行本としても出版されているので,是非ご一読をおすすめする.著者の松浦先生は東大の先生だが,作家,詩人,批評家でもある.特に芥川賞受賞作家としての方が有名かもしれない.改めて物語の主人公3匹のネズミに乾杯!
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