会報タイトル画像


診療室

勤務獣医師として思うこと

柑本敦子(青葉動物病院・宮崎県獣医師会会員)

 私は小動物臨床の勤務獣医師(勤務医)になって5年目となる.そろそろ独立しないのか,と言われることもあるが,勤務医としての努力を今しばらくは続けていきたいと考えている.そこで,僭越ながら,勤務医として私が普段感じていることをいくつか述べさせていただきたい.
 私は大学卒業後,企業に勤めていたが,そのとき最初に教育されたことは,社員一人ひとりが会社の顔である,ということであった.社外の人と接するときは,各個人が企業理念を基に責任を持って応対せよ,ということである.動物病院においても,各病院の診療方針を十分理解した上で,責任のある仕事をしていくことが大切だと思う.病院の方針を理解し,その方針に沿った診療をしていなければ1つの病院内に小さな病院が複数存在するような状況になるかもしれない.そのためには,院長や他の勤務医の先生方と,数多くディスカッションをすることが重要だと思う.実際今の勤務先では,症例について,病院経営について,毎日のように話し合っている.病院の方針を理解し,症例を共有し,問題を共に解決し,文字どおり一丸となって取り組むことにより,各個人が病院の顔となり責任のある仕事ができると同時に,それが飼い主の安心につながり,自分自身の自信にもつながると思われる.
 入院動物の管理は主に勤務医に任されることが多いと思われるが,限られた時間内で外来と並行しての入院動物の診察,処置等の対応で,多忙を極めることもある.動物病院のスタッフも,忙しくなってくると外来診療を重視して,入院動物の世話等が流れ作業的になりがちである.しかし,入院動物やその飼い主の不安も考慮し,1頭1頭に対し気を配り愛情を注ぐことが大切だと思っている.プロとして客観的に監視することは当然重要であるが,その一方で,家族と同じくらい親しみをもって接することができる心のゆとりを持ちたい.
 私が動物病院に勤める前,動物看護士などのスタッフの方々とうまくやっていけるのか,とても不安であった.実際は,今まで素晴らしいスタッフの方々に恵まれ,そのような心配などまったく必要なかった.しかし,特に卒後間もない若い獣医師が,自分より年上のスタッフに指示を出すことに,抵抗を感じる人も多いのではないだろうか.この点については,職場の後輩という立場を忘れないこと,獣医師としての誇りを持つこと,そして仕事内容に壁を作らないこと,の3点が重要だと思う.最後の1点は具体的には,診療業務以外の雑用等も積極的に取り組むことである.特に犬舎掃除は動物の健康管理上非常に重要な仕事であり,それを実感することで,スタッフに対する敬意が自然と生まれてくるものと思われる.そして,スタッフと獣医師とのチームワークで良質な診療ができるのではないだろうか.
 私は朝一番で出勤することを心がけており,そして日中の診療終了後もデスクワーク等で居残り,帰宅は夜中になることも多い.それでもほとんどストレスなく毎日嬉々と過ごしているのは,今の仕事に強いやりがいを感じているからだと思っている.院内での業務以外にも他院の先生方との勉強会や学会発表,論文投稿の準備など,することは常に山積している.これらを通じて知識・技術を蓄積し,普段の診療の質を上げると同時に,臨床獣医師としての能力を向上させることができると考えている.そして,これが臨床の醍醐味であると感じている.


柑本敦子  
―略 歴―

2001年 宮崎大学卒業
  私立動物園(静岡県)勤務
2003年 愛知県の動物病院に勤務
2005年 宮崎県の青葉動物病院に勤務
  現在に至る


先生写真



† 連絡責任者: 柑本敦子(青葉動物病院)
〒880-0842 宮崎市青葉町92-1
TEL 0985-22-1228 FAX 0985-22-1227 
E-mail : koji_atsu@ybb.ne.jp