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伊藤茂男†(北海道大学大学院獣医学研究科副研究科長)
本研究科では,北海道大学の獣医学部卒業生に加えて他大学からの学生,社会人や留学生の受け入れを積極的に行ってきた.獣医師会の会員の皆様に獣医学研究科の教育目的,選抜試験,カリキュラムの内容などを紹介したい. |
1 理念と目標 北海道大学大学院獣医学研究科は,動物の健康及び種の保全に関する教育研究を行うことにより,獣医学に関する幅広い視野,柔軟な発想力及び総合力を養い,もってわが国のみならず世界の獣医科学の発展に寄与することができる人材を養成することを目的としている(獣医学研究科規定第1条).平成17年度から大学院教育改革を推進するために文部科学省は「魅力ある大学院教育イニシアティブ」補助事業を開始したが,本研究科はこの事業に「次世代の獣医科学研究者育成プログラム」を提案し採択された.この提案に沿って大学院教育カリキュラムを改正し,平成18年度から新しい大学院教育を開始している. このプログラムでは動物実験倫理に立脚した動物実験管理能力を身につけるためのカリキュラムを獣医学研究科のコアカリキュラムと位置づけ,さらに分野別カリキュラムを設定し,幅広い知識と技術に基づいた科学的洞察力とともに国際性を養うことを目指している.今後さらに教育内容を深化させ,現代社会のニーズに応えることができる人材を育成したいと考えている. |
2 学位授与者数 北海道大学大学院獣医学研究科で学位を授与された人数は,平成18年度現在754名である.旧制大学の下では68名,新制大学から平成3年の学位規則改正前までに「獣医学博士」の学位を取得したのは317名(課程博士82名,論文博士235名),改正後から平成18年度までに「博士(獣医学)」を取得したのは369名(課程博士210名,論文博士159名)である.このシリーズの冒頭で帯広畜産大学の三宅陽一先生(日獣会誌,60,242-243,2007)が指摘されたように,近年,課程博士の数が増加し,論文博士の数が減少する傾向を示している.この傾向は,北海道大学における全ての理工系大学院にも当てはまる. |
3 教育研究分野 本研究科は,獣医学専攻のみからなり入学定員は一学年24名である.この専攻には,獣医学研究科の比較形態機能学講座(解剖学,生化学,生理学,薬理学),動物疾病制御学講座(微生物学,感染症学,寄生虫学,実験動物学),診断治療学講座(内科学,外科学,繁殖学,臨床分子生物学,比較病理学),環境獣医科学講座(公衆衛生学,放射線学,毒性学,生態学),プリオン病学講座に加えて協力講座として人獣共通感染症学講座が置かれている.人獣共通感染症学講座は,平成17年に設立された人獣共通感染症リサーチセンターの4部門(国際疫学,分子病態・診断学,バイオリソース,国際協力・教育)の教員で構成されている.獣医学研究科と人獣共通感染症リサーチセンターは教育研究に関して協力関係にあり,人獣共通感染症リサーチセンターを志望する大学院生が取得できる学位は博士(獣医学)である. 大学院学生は,志望する教育研究分野(研究室や部門)にそれぞれ配属され研究指導を受ける.従って,志望した研究室の具体的な研究内容をあらかじめ把握しておく必要がある.本研究科を志望する,他大学の学生や社会人学生は,獣医学研究科(http://www.vetmed.hokudai.ac.jp/)と人獣共通感染症リサーチセンター(http://www.hokudai.ac.jp/czc/)のホームページで各研究室と部門の研究内容をご覧いただきたい.また,志望する研究室が決まった場合には,あらかじめ研究室の教員に問い合わせることをお勧めする.大学院の授業科目を公開するオープングラジュエートユニバーシティを9月頃開催し,大学院教育の説明会,研究室訪問,施設見学なども行っている.毎年,開催案内を獣医学研究科のホームページに掲示しているので,研究室を決めるための参考にしていただきたい. |
4 入 学 方 法 博士課程学生募集と社会人特別選抜入学者募集は,年2回(4月入学と10月入学)行っている.社会人特別選抜は,通常の学生募集における出願資格に加えて,2年以上原則として官公庁,会社または団体などに在籍している方が対象である.出願資格に関しては,近年規則改正が行われ,門戸が拡大した.この紙面に全て掲載することができないので,不明な点があれば,獣医学研究科教務担当係に照会もしくは指導教員に問い合わせることをお勧めする. (1)入学試験日程:4月入学の1次募集(10月試験)と2次募集(1月試験)10月入学(7月試験) (2)試験科目:
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5 大学院での教育 大学院を修了するための履修単位は30単位以上である.大学院は通常4年間の在学で修了するが,優れた業績を上げた学生には3年次短縮修了制度もある. 入学すると志望した研究室で指導教員の下で,博士論文作成に係わる研究を行うことになる(獣医科学特別研究:16単位)また,各研究室で行われるセミナーなども単位化されている(獣医科学特論演習:6単位).さらに,大学院の授業科目として,動物実験倫理特論(2単位),先端研究機器演習(1単位)及び実験計画法演習(1単位)がある.実験計画法演習は,学位論文研究の研究経過発表会であり,1年次と2年次の2月頃に大講座ごとに実施する.この発表会には講座の教員が参加し,質疑応答を行い研究のさらなる発展と大学院生の発表スキルの向上を目的としている. 分野別カリキュラム(必修選択2単位)を4単位以上履修する. (1)大講座による科目 |
6 学位論文審査 本研究科に在学し修了要件を満たした学生(見込みも含む)は,既定の期日までに博士論文(単著)を提出することになる.博士論文は,その内容の全部または一部が審査制度の確立されている学術雑誌(英文)に原著論文として発表もしくは受理されていなければならない(博士関連論文).学位の申請にあたっては,博士論文とともに博士関連論文も提出する.研究科教授会では博士論文の受理の可否を決め,4名からなる審査委員会を選定し,審査がおこなわれる.この学位審査の過程で博士論文発表会にて博士論文の研究内容を発表しなければならない.審査委員会は,審査内容を教授会に報告し,そこで可否が決定される.論文博士に関しても基本的に同様な審査がおこなわれるが,6年制の獣医学教育を受けたものに対しては,6年以上の研究歴が必要である.研究歴等学位論文提出資格の予備的審査などが必要となる場合があるので,学位論文の内容に最も関係があり,これらの手続きを世話してくれる教室主任に相談する必要がある. |
[連 絡 先] |
† 連絡責任者: | 伊藤茂男(北海道大学大学院獣医学研究科) 〒060-0818 札幌市北区北18条西9 TEL 011-706-5219 FAX 011-706-5220 E-mail : sito@vetmed.hokudai.ac.jp |