会報タイトル画像

馬耳東風

 中国各紙の報道によると,今年5月頃から国内主要都市の豚肉が,昨年より5割近く急騰し,瀋陽市では2倍にもなったと.このため北京市では肉まんも値上りし,豚肉に澱粉を混ぜたものまで現れたと報じている.
 中国政府は急騰の理由として,昨年発生した豚連鎖球菌病で大量の豚が死亡したためと説明しているが,実は養豚コストの8割を占める飼料価格の高騰によるものだと論評している.事実飼料の主役であるトウモロコシの価格が,ここ2年で4割強も上昇していると報ずる.
 中国のトウモロコシ生産量は,昨年1億4千万トンだが,近年輸出量を300万トンと大幅に減らし,逆に大豆は世界貿易量の4割強も輸入している.これはバイオ燃料やコンスターチなど用途拡大によるものだという.
 また中国の農地は水不足で,これ以上の増産は無理だから,中国の穀物の輸入は今後も続くとみられている.
 ところで,バイオ燃料は地球温暖化抑制には効果があるが,原料にトウモロコシやサトウキビなどが使われるから,これらが食料や飼料に与える影響は大きいのだ.
 中国のみならず,米国アイオワ州の養豚家は,飼料のコーン代が昨年1頭当たり35ドルだったのに,今年は65ドルになったと嘆いている.まして牛の飼養家は,牛肉1キロの生産に11キロのコーンが必要というから打撃が大きい.勿論消費者価格にはね返ることになる.
 米国は世界のトウモロコシの4割を生産するが,これからバイオ燃料としてエタノールの生産を義務づけるため,2年後に日本向けの輸出制限の計画があるとか.
 ブラジルも,現在オレンジ畑を潰してサトウキビを増産してバイオ燃料用にしているので砂糖が値上りした.
 今世界では年間5千万キロリットルのバイオ燃料が生産されているというが,こうした世界の動きは年々加速されるだろう.日本もサトウキビなどから作るバイオ燃料を,20年後年間600万キロリットルが目標だと.
 こうなると家畜どころか,人間の食糧不足にもなる.日本でも自給率が問題になる.食糧の輸入は多く望めないから.すでに,パンやマヨネーズも値上げされた.
 折しも最近豪州との貿易交渉に見られるように,農産物の関税撤廃などとなると,輸入の多い小麦,砂糖,牛肉,乳製品の4品目で国内生産の約8千億円分の生産減に相当し,牛肉は2,500億円で56%分が,乳製品は2,900億円で44%分が生産減に相当と試算される.
 この格差を埋めるのに4,300億円の財政負担が必要だとも.政府は自給力向上の一環で,国内飼料増産対策に6億1千万円を新年度要求するとか.さて畜産の前途は多難だ.この辺で獣医師の出番はないのか.
(寅)