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学術・教育

─ 獣医学における学位の取得(IX) ─
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
獣医学専攻博士課程について


小崎俊司(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科教育研究会議委員)

先生写真  1 は じ め に
 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医学専攻は,明治16年に開校された獣医講習所を母体とし,これまで120年以上にわたって獣医学教育・研究に貢献し,わが国で博士課程を有する獣医系唯一の公立大学として,また,近畿圏唯一の獣医学教育機関として,大阪を中心とした近畿圏はもとより,全国の獣医学教育・研究の先導的役割を果たしてきている.
 最近の沿革を紹介すると,平成2年には文部省より示された獣医師養成教育制度の改革に呼応し,15講座からなる6年制の学部,4年制の博士課程大学院に改組・整備した.平成12年には大学院が部局化され,さらに平成13年には獣医学教育の高度化を目指すために教育研究組織を4大講座,18研究室に再編した.平成17年には,大阪府立大学の公立大学法人への移行に伴い,3分野6講座からなる大学院生命環境科学研究科獣医学専攻及び同大学生命環境科学部獣医学科に改組・改称し,現在に至る.
 現在の教員組織の規模は,国公立大学唯一の学部組織を持つ北海道大学獣医学部に匹敵し,大学基準協会が提示した獣医学教育に必要な教員組織を持つ獣医学教育機関である.
 特筆すべき事項として,当専攻は平成21年4月に現在の堺市にある中百舌鳥学舎から,関西国際空港対岸のりんくう地区へ移転する予定である.りんくう地区における新学舎は5階建てで,敷地面積が現在の約3倍となる「獣医臨床センター」と新たに動物施設として「動物科学研究センター」を併設する.同時に最新の先端機器が備えられることになっており,学部教育ばかりでなく博士課程の教育・研究環境を一層充実する予定である.
本専攻における博士課程の概要を,以下に紹介させていただきたい.

 2 教育目的及び教育目標
 獣医学専攻は,大都市大阪に立地していることから「都市型獣医学」を教育研究の命題としており,病態動物の診断と治療などの高度獣医療分野,人獣共通感染症の制圧や畜産食品の安全性確保などの公衆衛生分野や社会的要請が増加している動物バイオ関連分野において貢献でき,さらにこれら獣医学に関する学識,見識,技術に加えて,応用動物科学領域で専門別に細分化された知識・技術を統合し,独創的指導能力を発揮しうる国際的な専門家の育成をめざしている.

 3 教 員 組 織
 に示すように,本専攻の教員組織は動物構造機能学分野,獣医環境科学分野,獣医臨床科学分野の3分野からなり,各分野はさらに,それぞれ,統合生体学講座と統合バイオ機能学講座,生体環境制御学講座と感染症制御学講座,先端病態解析学講座と高度医療学講座の計6講座に分かれている.各講座にはそれぞれ3教室(教育研究グループ)が所属し,統合生体学講座には獣医解剖学教室,獣医病理学教室,実験動物学教室,統合バイオ機能学講座には統合生理学教室,応用薬理学教室,細胞分子生物学教室,生体環境制御学講座には毒性学教室,獣医公衆衛生学教室,獣医免疫学教室,感染症制御学講座には獣医微生物学教室,獣医感染症学教室,獣医国際防疫学教室,先端病態解析学講座には細胞病態学教室,獣医放射線学教室,獣医繁殖学教室,高度医療学講座には獣医内科学教室,獣医外科学教室,特殊診断治療学教室が属している.平成19年4月現在,ほとんどの教室が教授,准教授,助教,各1名から構成されており,あわせて53名の教員からなっている.また,附属教育研究施設として獣医臨床センターがあり,獣医臨床科学分野の教員が兼担している.
表

 4 大学院入学
 本専攻の大学院入学試験の区分は,一般選抜試験,社会人特別選抜試験,外国人特別選抜試験に分かれており,募集人員は一般選抜試験が13名で,社会人及び外国人特別選抜試験はそれぞれ若干名となっている.いずれの場合も4月入学または10月入学が可能である.出願希望者は事前に所属を希望する講座の教員とよく相談することが望ましく,出願資格,出願書類及び出願期間の詳細については募集要項を参照願いたい.一般選抜試験は英語の筆記試験(辞書持ち込み可)と専門科目の口頭試問,社会人特別選抜試験は専門科目の口頭試問,外国人特別選抜試験は専門科目の筆記試験と口頭試問がある.なお,口頭試問は受け入れ予定の主指導教員(主査)を含め5名の面接試験委員により行われる.

 5 大学院教育
 本専攻博士課程の在学期間は通常4年で8年を超えることはできない.なお,本専攻において特に優れた研究業績をあげたと認められた場合は3年で修了することができる.入学後は主指導教員が属する教室に所属して,それぞれの専門分野における教育・研究指導を受ける.具体的には,専門分野の特別演習と特別研究(必修科目で合計24単位)と専門分野の特別講義(選択科目で2単位)を含めて30単位以上を履修しなければならない.必修科目の中には,専攻全体で行う大学院演習(ミニレビュー及び中間発表)が含まれる.また,ティーチング・アシスタント(TA)に採用されると経済的援助が受けられる.平成20年度から博士課程入学者に向けた大学独自の奨学金が設立されることになっており,他大学より充実した制度が開始される.
 学位の申請には学位論文の提出が必要であり,主査と2名以上の副査からなる学位論文審査委員会によって審査されるとともに,学位論文発表会(公聴会)にて発表しなければならない.審査委員会委員及び本専攻教授からなる審査会議において,学位を授与できると判定された場合,研究科の教授会で学位授与の議決が行われる.なお,学位の申請時に学位論文の基礎となる学術論文(インパクトファクター値が国際的に公表されているもの)が筆頭著者として1報以上掲載もしくは受理されていなければならない.

 6 論 文 博 士
 学位取得方法には上記の課程博士制度以外に,論文博士制度がある.この場合は課程博士と同様に学位論文審査委員会による審査及び学力確認試験(専門科目及び英語)を受けると共に,公聴会での発表も必要である.学位授与の議決も課程博士と同様に行われる.なお,学位の申請時に学位論文の基礎となる学術論文(インパクトファクター値が国際的に公表されているもの)が筆頭著者として2報以上掲載もしくは受理されていなければならない.しかしながら,この論文博士制度は将来的には廃止の方向で検討されている.

 7 お わ り に
 獣医師の場合,医師と比較して,その職域の多様性に起因しているのか,博士取得の気運が薄いように感じられる.課程博士でも論文博士でもどちらの場合も,学位を取得するためには,動物科学分野における最新の研究を行わなければならない.したがって,学位を取得することは自らの専門的知識の向上のみならず,動物生命科学分野の発展に寄与することになる.獣医師としての実務を行うことは当然であるが,それに加えて,動物に関連した分野の発展に貢献していくことも重要である.博士の学位を取ることだけが貢献の全てではないが,最も明確で最短な方法だと思われる.当専攻では,応用動物科学に貢献したいという獣医師を積極的に迎えいれる体制は整備されている.ぜひ,学位取得を獣医師としての人生設計の中に組み込んでいただきたい.
 大阪府立大学獣医学専攻の各教室が行っている研究内容については,獣医学専攻専用のホームーページ(http://www.vet.osakafu-u.ac.jp)をご覧いただきたい.また,大学院への手続き等の詳細については,獣医学専攻大学院教務委員の小森雅之教授(TEL 072-254-9489)まで相談願いたい.



† 連絡責任者: 小崎俊司(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)
〒599-8531 堺市中区学園町1-1
TEL 072-254-9504 FAX 072-254-9499 
E-mail : kozaki@center.osakafu-ac.jp