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中尾敏彦†(山口大学農学部教授・世界牛病学会理事)
![]() 学会は,個体診療,集団診療とハードヘルス,畜産物の安全性など,大きく5つのセッションに分けられ,合計,52の基調講演(招待講演),220の口頭発表,そして,632のポスター発表が行われた.この他に,さらに,3つのワークショップ,製薬会社主催の5つのシンポジウムと,3つのフォーラムが行われた.また,今回の学会に合わせて,ヨーロッパの牛の臨床獣医学分野の卒後教育機関であるEuropean College of Bovine Health Management(ECBHM)の年次学会も開催された.日本からの発表は,口頭発表が2題(永幡 肇,酪農学園大;中尾敏彦,山口大)とポスター発表が8題(田島誉士,北海道大;吉田智佳子,新潟大;山田恭嗣,根室地区NOSAI;木田克弥,帯広大;河合一洋,十勝NOSAI;柄 武志,鳥取大;矢追博美,矢追医院;畠中みどり,兵庫NOSAI)であった.筆者は,主に繁殖関係のセッションに参加したが,基調講演はもとより,一般発表においても,一流の研究者によるすばらしい講演が行われた.どの会場も盛況で,特に,微量要素と繁殖の関係についてのセッションでは,会場がやや小さかったこともあるが,開始の5〜10分前に,満席となり,その後押し寄せた多くの参加者が入場できなくなるほどであった.ポスターも興味をひく充実した内容のものが多く,多くの参加者が,ポスター発表者と熱心に質疑応答を行っていた(図1).
学会期間中に,理事会,理事と各国代表の合同委員会,総会が開催された.日本からの代表としては,理事である筆者が,今回の参加者の中で,比較的よくこの学会に出席している酪農学園大の永幡教授と根室地区NOSAIの山田獣医師に出席を依頼した.主な報告・協議事項は次のとおりである. (1)ハノーバーで開催された第23回世界牛病学会の組織委員会から,4万ユーロ(約600万円)が,世界牛病学会に寄付された.この資金は,若手獣医師の本学会への参加費用助成,学会のウェブサイトの充実などに活用される.今回の世界牛病学会は,ヨーロッパが牛の獣医学の中心であることを再認識させるものであった.学会の運営を行う理事会の構成も,ヨーロッパ中心であり,ヨーロッパからの理事の多くは,2003年に設立されたヨーロッパ牛健康管理専門医組織(ECBHM)の役員を兼ねている.このECBHMと世界牛病学会の連携により,ヨーロッパにおける牛の獣医学研究と獣医療のレベルアップが行われている.一方,米国の牛臨床獣医学会(AABP)も,毎年の年次学会に,北米だけでなく,南米やヨーロッパなども含めて,1,000人以上の参加者を集め,国際学会に匹敵する内容の充実した卒後教育の機会を提供している.このAABPとヨーロッパのECBHMと世界牛病学会が連携して,欧米だけでなく,広く,アジア,アフリカ,南米などを含めた,文字通り世界の牛の獣医学と獣医療の発展を担うことが,今後の重要な課題であろう.わが国で牛獣医療に携わる獣医師も,このような欧米のダイナミックな動きに遅れることなく,卒後教育の場を世界に求めて,積極的に行動することが必要であろう. |
† 連絡責任者: | 中尾敏彦(山口大学農学部獣医学科家畜臨床繁殖学講座) 〒753-8515 山口市大字吉田1677-1 TEL ・FAX 083-933-5935 E-mail : tnakao@yamaguchi-u.ac.jp |