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馬耳東風

 嗅いで視る動く車の三の外顔聞く舌は迷う副舌.これは何を表すかご存じだろうか? そう,これは脳に連絡する12対の末梢神経の順序である.念のために正確な神経名を書くと,嗅神経,視神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,外転神経,顔面神経,内耳神経,舌咽神経,迷走神経,副神経そして舌下神経となる.私がこれを覚えたのは大学の生理学の講義で,星冬四郎先生に教わった.何故解剖学でなく,生理学であったのかよく覚えていない.またこれが何の役に立ったのかもよくわからない.しかし記憶力の悪い私が未だにそらんじて言えるのは,これが,我が国古来の和歌同様,57577のリズムに乗っていたからであろうと思う.
 子供の頃,正月に我が家では小倉百人一首のカルタ取りが恒例の行事だった.負けるとしゃくに障るので,百首全部覚えてしまった.意味が解ろうと解るまいと57調であるので案外覚えやすい.しかし意味が解ってないと,歌の途中からではスムーズに進まない.最初の出だしがないと後が続きにくいのである.ただこれはカルタ取りには好都合だ.「むすめふさほせ」の一枚札などは最初の発声で,パッと手を出したものである.このころ覚えた言葉はなかなか忘れないものだ.後々になって,ああこういう意味だったのかといくつも気づかされた.
 落語が好きで若い頃寄席にも通った.何度も通い,何度も聞いたのに有名な寿限無がなかなか覚えられなかった.(今は最後まで言えますがね.)ところがある時,某保育園で,2〜3歳の子が寿限無を難なくスラスラと言ってのけるのをテレビで見て驚いた.57調でなくても意味が解らなくても覚えさせたら子供は覚えるものなのだ.ただこれも途中からでは無理らしい.50まで数えられると威張る3歳の孫といっしょに風呂に入って,首まで浸かって50数えたら出てよいと言って数を数えさせた.35付近で間違えたので,30からもう一度と言ったら,これが出来ない.1から始めないとだめなのだ.はは〜ん保育園の寿限無もこれだなと思った.
 幼い子は別にして,われわれ日本人に57調の言葉は耳に快く,覚えやすい.私の好きな映画の寅さんのセリフにこれが多い.「たいしたもんだよカエルのションベン,見上げたもんだよ屋根屋のふんどし.四谷赤坂麹町,チャラチャラ流れるお茶の水.男は度胸で女は愛嬌,坊主はお経で学生は勉強,庭で鴬ホーホケキョ.……」多少の字余りがあったりするが,「もん」などは一音で読むとぴったりだ.で終わり名古屋は城で持つ.
(子)