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白井淳資†(日仏獣医学会会計幹事・東京農工大学大学院共生科学技術研究員教授)
本学会は,わが国獣医界とフランス獣医界との間の学術交流組織の必要性に鑑み,これに賛同する獣医師が集い,1989年6月,日仏獣医学会創立記念集会を開催して発足した. 本学会では,これまで,フランス獣医界から講師を招聘して講演会を行うとともに,1990年から,日本,フランスのどちらかを開催地として,セミナーを開催してきた. このたびの第9回日仏獣医セミナーは,前回のセミナーが日本(2005年8月20日,京王プラザホテルでの第2回日本獣医内科学アカデミー)において開催されたことから,2006年6月22日,フランス・アルフォール獣医大学を会場として,「感染症」をテーマに開催された. 6月20日,本セミナーに先立ち開催されたフランス医学アカデミー総会においては,仏日獣医学会のCharles PILET会長の計らいにより,日仏獣医学会の長谷川篤彦会長(日本大学生物資源科学部教授)から日仏獣医学会の発足とこれまでの日仏の交流のあらましを説明する機会を得た.これは,過去にフランス医学アカデミー会長(獣医師としては2人目)も歴任されたPILET会長であったからこそ,実現したものと思われ,後刻,PILET会長に同アカデミーを案内していただいた.なお,フランスにおける自然科学分野の学会はすべてフランス科学アカデミーに所属しているが,医学アカデミーだけは独立した組織ということであった. 本セミナーには,日本側から長谷川会長,池田忠生事務局長(日本大学医学部助教授),小野寺 節学術担当幹事(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)の他,9名の日本人会員,さらにフランス在住の世界保健機構中嶋 宏名誉事務総局長や農林水産省消費・安全局動物衛生課よりパリの国際獣疫事務局に派遣された石橋朋子技官も参加し,一方,フランス側はアルフォール獣医大学の教官をはじめ,フランス獣医師会会長,退官された著名な獣医学研究者等が多数参集した. セミナーはPILET会長の挨拶に続き,長谷川会長の開式の辞,前国際獣疫事務局長であり,フランス獣医学アカデミーのJean BLANCOU会長の祝辞で幕を開けた. 最初のセッションは,『小動物(犬,猫ほか)の感染症』で,ウサギの疾病に造詣の深い斎藤久美子氏(埼玉県開業)が「愛玩ウサギの梅毒」について講演され,続いて長谷川会長が「猫の骨髄異形成症候群の病理発生」を発表された.さらに「組換え犬インターフェロンγによる犬のアトピー性皮膚炎治療」に関する演題を桜井 徹氏(東レ(株))及び中村遊香氏(共立製薬(株))が発表された.その後,PILET会長の座長による総合討論が行われ,活発な質疑応答がなされた. 次のセッションでは,リヨン獣医大学Marc ARTOIS教授による「野生動物は新興感染症の自然宿主なのか」という総論的な演題の発表に続き,その実例として私から「マレーシアのオオコウモリにおけるニパウイルスの疫学調査」を講演した後,池田事務局長の座長により活発な質疑応答が行われ,午前中のセッションを終えた. 昼食会の場においては,長谷川会長のフランス獣医学アカデミー名誉会員の認証式,日仏獣医学会及び仏日獣医学会双方から記念品の贈呈式が和やかな雰囲気の中で行われた. 午後からは,今世界を揺るがしている2大疾病についてのセッションが行われた.まず,食品安全委員会委員でもある小野寺幹事が「日本におけるBSEの発生状況及び食品安全委員会の確立」について講演され,次いで日本で開催されたBSEに関するセミナー講演者として来日されたことがあるアルフォール獣医大学のJeanne BRUGERE-PICOUX教授が,「ヨーロッパにおける高病原性鳥インフルエンザ(H5A1)の発生状況」について講演され,その後,長谷川会長の座長により活発な質疑応答がなされた. 最後のセッションは,『パスツレラ症及びバルトネラ症』についてで,池田事務局長からフランス語で「日本におけるパスツレラ症の発生状況」が講演された.続いて,昨年,日本大学獣医学科セミナーで講演されたアルフォール獣医大学のHenri Jean BOULOUIS教授が「家畜のバルトネラ症;臨床学的及び疫学的見地から」を講演された後,フランス獣医学アカデミーのBLANCOU会長を座長に総合討論が行われ,最後にPILET会長が結論を述べられた. 第9回セミナーは,長谷川会長の閉会の挨拶をもって無事終了した. 本セミナーも,前回,ニースで開催されたセミナーと同様,寄生虫学のJacques EUZEBY教授をはじめ,著名なフランス人獣医学研究者が多数出席され,プログラムが充実しており,大変有意義な経験となった.次回はわが国においてセミナーを開催する予定だが,今回以上に魅力的な企画を用意し,ご尽力いただいたPILET会長を招待したいと考えている. 最後に本セミナーに際して,中村 寛獣医学術振興基金助成事業より国際学術交流のための多大な助成をいただいた,日本獣医師会に心から感謝申し上げる次第である. |
図1 BLANCOU博士から長谷川博士に名誉会員認証メダルが授与される |
図2 フランス獣医学アカデミーから授与された名誉会員認証メダル |
† 連絡責任者: | 白井淳資(東京農工大学大学院共生科学技術研究院) 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 TEL ・FAX 042-367-5780 E-mail : jshirai@cc.tuat.ac.jp |