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診療室

動物とのふれあい活動を通じて

増田敏行(マスダ動物病院院長・静岡県獣医師会会員)

 特別養護老人ホームや緩和ケア病棟(ホスピス)等の福祉施設に入所・入院されている方々に動物とのふれあう機会を持っていただく「動物とのふれあい活動」は,全国各地で行われ,更に広まりつつある.この活動に尽力されている諸先生方からすると未熟な点も多々あることと思うが,静岡市獣医師会の社会福祉事業への取り組みの一環であるこの「動物とのふれあい活動」を通じて感じたこと,新たに発見したことをお話させていただきたい.
 平成9年10月に静岡市獣医師会会員と適性を持つ動物及びその飼い主達からなるボランティア団体が結成され,「ひだまり倶楽部」と命名された.市内のある特別養護老人ホームで活動を始めて以来,年々実績は増え,9年目にあたる平成18年度においては,市内の特別養護老人ホーム5施設・総合病院の緩和ケア病棟1施設に対し,延べ35回の活動を行った.1回に参加するボランティアは平均11.5人・ボランティア動物(犬・猫・ウサギ)は平均9.5頭で,いつも和気あいあいと楽しみながら活動を行っている.
 緩和ケア病棟での活動は6年前に看護師長からの依頼を受けて始まった.当時4カ所程の特別養護老人ホームで活動を行っていたが,緩和ケア病棟での活動は経験もなく,病棟の雰囲気すら理解していなかった.活動を始めるにあたっての事前の打ち合わせで看護師長に「活動中にもし病気の悩みを相談されるようなことがあったらどうしたら良いのでしょうか?」と質問したところ,「ここに入院されている患者さんはガンの末期で,薬剤治療で病気と闘うことをやめ,残された命を大切に過ごそうと決めた方なのです.ですからある意味とても強い方が多いと思います.それでも何か相談されたら,ただ黙って“うん,うん”と聞いてあげて下さい」と教えられた.
 実際の緩和ケア病棟での活動は,20〜30分というほんのひとときの時間ですが,輸液や酸素のチューブをつけた患者の方々に車イスやベッドで病棟内のホールに集まっていただき,動物達とふれあっていただいている.また体調の関係でホールに出て来れない患者の方に対しては依頼があれば個室に伺っている.ホールに集まってくる患者の方々は以前に,あるいは現在,自宅で動物を飼われている方が多く,本来動物達の居るはずのない院内に動物達が来て,自分の膝の上で抱くことができる等心から嬉しそうに見える.日頃は精神的にも大変な思いをしている方々が,この時ばかりはそのようなことも忘れていてくれるように感じている.そして,ある患者の方は「今日は動物達が来るから…」と,自分のお子さんに小学校を休ませ,活動のホールで「この犬はプードルで,あっちにいるのはチワワだよ」とまるで「お父さんはもの知りなんだよ」と子供に伝えようとしているかのようであった.また,動物を連れて行って喜ばれるのは入院患者の方ばかりではない.患者のご家族はもちろんだが,常に精神的に大変な環境の中で仕事をされている,この病棟の看護師の方々も,動物達を連れて行くと非常に歓迎してくれる.「抱っこしていい?」と患者の方々に負けないくらい動物達とふれあうことを楽しみにしてることを実感している.
 最後に沢山の経験の中から忘れられない一つのエピソードをお話ししたい.それは活動を初めて3年目のある日のこと.その日の活動が半ばくらいにさしかかった時,看護師長が私に「70歳くらいの動物が大好きな男性の患者さんなのですが,状態が悪く明日にも亡くなってしまうかも知れない状態なのです.できれば個室に来てもらえますか?」と話しかけられた.私はパートナーであるトイプードルを連れ,看護師長の後について個室に入ってみた.そこでまず目に入ったのが自宅で飼われているゴールデンレトリーバーの写真であった.ベッドに寝ている患者の方は酸素マスクを付け,意識はほとんど無く,呼吸も「ゼーゼー」ととても苦しそうであった.ベッドの回りには数名の家族の方々が立って見守っており,私に会釈し歓迎してくれた.小型のトイプードルを意識の無い患者の脇にすわらせると,患者の娘さんが「お父さんの大好きな犬が来てくれたよ」と言いながら,意識の無い患者の手を取り犬の体をなでさせてくれた.家族の皆さんばかりでなく看護師長も,私の眼にも熱い涙があふれていた.
 私の場合,訳あってこの活動の代表を任されたが,当初は大変な役を任されてしまったものだと思っていた.しかし最近はこの活動を通して色々と学ぶことの喜びを素直に感じられるようになってきた.
 最後に今考えている構想を話したい.この緩和ケア病棟には1カ月に1回定期的に訪問してはいるが,1カ月後にはもう会うことのできない患者の方もいる.看護師長からも「先月来ていただいた時はとっても喜んでいたあの患者さんがもう一度会いたがっていたのですけれども…」といった話を聞き,定期的な活動以外にも患者の方々の希望に応えられるようなスポット的な活動も進めたいと考えている.

増田敏行  
―略 歴―

1981年 宮崎大学卒業
1983年 大阪府立大学研究生卒業
1987年 静岡県静岡市にマスダ動物病院を開業
1997年 ボランティア団体「ひだまり倶楽部」を設立.
代表として活動に取り組む.


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† 連絡責任者: 増田敏行(マスダ動物病院)
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