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学術・教育

─ 獣医学における学位の取得(VI) ─
「東連獣」からのメッセージ

小森成一(岐阜大学大学院連合獣医学研究科研究科長)

先生写真  東連獣(ヒガシレンジュウ),これは俗称である.正式名は岐阜大学大学院連合獣医学研究科という.この研究科は,獣医学科または獣医学課程を有する帯広畜産大学,岩手大学,東京農工大学及び岐阜大学が連携協力して,平成2年に設置された標準修業年限4年の大学院博士課程である.現在,これら4大学に加え,国立感染症研究所,国立医薬品食品衛生研究所,動物衛生研究所も連携参画している.
 高学歴社会の進展に伴ない,専門知識の高度化・個性化や自己再教育などの教育ニーズが高まる中,博士(獣医学)の学位を取得したい人も増えてきている.そうした方々へ東連獣からのメッセージとして,本研究科の理念目標と教員組織,学位取得の方法,入学及び学位授与状況,修了後の就職動向についてその概要を紹介する.

 1 理念目標と教員組織
 本研究科では,理念目標を7項目からなる憲章として明示している.要約すれば,構成4大学及び連携3研究機関に在籍する獣医学系教員の連携協力のもと,一大学では期待し難い発展性と応用性の高い総合教育及び研究指導により,広い視野と高度な専門能力を兼ね備えた研究者・技術者を養成し,もって獣医学術及び関連諸科学の進展と21世紀社会の健全な発展に寄与することである.4構成大学・3連携研究機関の所在地―帯広,盛岡,東京,岐阜―を線で結ぶと,その距離は2,100kmになる.国内には数々の連合大学院があるが,これほど広域な例は他になく,その広域性なるがゆえに,本研究科の各担当教員には強い責任感と高い連携・協力意識が自生している.
 表1に示すように,本研究科の教育研究組織は基礎獣医学,病態獣医学,応用獣医学,臨床獣医学の4連合講座からなり,平成19年4月現在の教員は教授・准教授・講師・助教あわせて111名である.このうち,教授1名が本研究科の専任教員で,その他は併任教員(構成大学の専任教員)または客員教員(連携研究機関の研究職員)である.連合講座の下には,主指導教員資格を有する教授を責任者とする教育研究指導分野が設置されている.現在,その数は55で,学生はそのうちの1分野に所属し,教育・研究指導を受ける.
表1

 2 出願から修了まで
 学位の取得を目指す人は,出願から入学そして修了までの過程に様々な手続きや規約があるので,それらを理解しておく必要がある.以下に,その主なものとして,(1)出願資格と入学試験,(2)教育と研究指導,(3)学位論文審査,(4)論文博士制度,(5)検定料と授業料等について,その概要を説明する.
 (1)出願資格と入学試験
 本研究科では,修業年限6年の獣医学,医学または歯学の教育課程を卒業した者(または卒業見込み者)のみならず,農学,薬学,理学などの修士課程を修了した者をはじめ各種学校の卒業・修了者を対象に人材を広く募集している.しかし,出願資格について様々な規則や規約があるので,募集要項でよく確認する必要がある.その他出願にあたって特に留意する点は,出願書類の一つとして研究計画書が必要であるので,希望する教育研究指導分野を募集要項の一覧表から一つ選び,研究テーマや研究計画などについて,希望分野の主指導教員と事前によく相談することである.また,官公庁や会社などに在職している人は,所属長または代表者の受験承諾書も必要である.出願書類及び出願期間の詳細については募集要項を参照いただきたい.
 入学試験は第1次を9月,第2次を2月に行っている.どちらか一方に合格すると4月に入学できる.また,秋季入学試験(9月)もあり,合格すると翌月(10月)からの入学となる.第1次,第2次,秋季いずれの試験でも,学力検査として筆記試験(英語と専門科目)と口頭試問がある.専門科目は主指導教員予定者が出題する.口頭試問では,面接試験委員(4名以上)のもとで,卒論(または修士論文)と入学後の研究計画の概要を発表し,質疑応答を行う.
 (2)教育と研究指導
 入学すると,学生は主指導教員が専任として在職する構成大学・連携研究機関に配置され,通常はその配置先で教育・研究指導を受ける.教育については,講義,演習,実習を通じて修了要件である30単位以上を履修しなければならない.開講科目や履修計画などについては入学時のガイダンスで詳しい説明がある.代表的な講義としては,1年次8月下旬に,新入生全員(秋季入学生含む)を対象とした4泊5日の合宿形式の特別講義(必修)がある.この講義では,研究活動やプレゼンテーション,論文作成に必要な基本事項を修得したり,特別講師による先端的研究などについての講義を受けるとともに,学生が各自の研究の背景,目的,計画などを発表し,様々な専門分野の教員から助言を受ける.また,学生同士の交流も図る.その他の講義として,配置大学以外の構成大学・連携研究機関の教員による出張講義(必修)やeラーニング授業(選択)などもある.
 研究指導は,学生1人について主指導教員と2名の副指導教員の3名で当たる.第1副指導は主指導教員と同じ構成大学または連携研究機関の教員,第2副指導は学生の配置先以外の構成大学・連携研究機関の教員が務める.必要に応じて,配置先以外の構成大学・連携研究機関の施設・設備を利用することもできる.また,本研究科(4構成大学3連携研究機関)以外の大学院や研究機関等で1年を限度に研究指導を受けることもできる(研究委託制度).また,研究活動のかたわら,教育力や研究力の向上のために,有給で教育支援者(ティーチング・アシスタント:TA)あるいは研究支援者(リサーチ・アシスタント:RA)として採用される制度もある(TA制度,RA制度).
 (3)学位論文審査
 学位の申請にあたっては,学生本人の単著である学位論文が必要申請書類とともに4年次の既定期日までに提出されなければならない.また,学位論文の基礎となる学術論文1編以上が本研究科承認の専門誌に学生本人を筆頭著者として公表済みか,または公表予定でなければならない.学生は3年次後期の学位論文中間報告会において,公開で研究の進捗状況を報告することになっている.より良い学位論文の作成に向け,さまざまな教員から助言を受ける.なお,中間報告までに至っていない場合は,4年次に学位申請はできない.
学位申請書(学位論文を含む)が受理されると,申請者は学位論文審査委員会において試問により学位論文審査と最終試験を受ける.審査委員会は申請者ごとに設置され,主査(主指導教員)と4名以上の副査で構成される.審査委員会での結果は連合獣医学研究科委員会に報告され,そこで最終的に学位授与の適否が決定される.なお,審査委員会で合格と判定された申請者は,公開論文発表会で研究内容を発表しなければならない.
 学位(獣医学博士)の授与は,前期9月と後期3月の年2回ある.これに先駆け,学位論文審査はそれぞれ7〜8月と1月に行われる.修業年限4年で学位が取得できない場合には,少なくとも半年遅れることになる.
修了年限4年を待たないで学位を取得できる制度(在学期間短縮制度)が用意されている.この制度は,特に優れた研究業績を上げ,かつ所定の単位を取得した学生にあっては,3年または3年6月で修了を認めるものである.この制度には適用基準が定められているので,希望する場合には,必要書類を博士短縮審査委員会に提出し,その適用の可否について事前に審査を受けなければならない.
 (4)論文博士制度
 学位取得方法には,これまで述べてきた大学院に入学して取得する課程博士制度のほかに,入学しないで取得できる道(論文博士制度)もある.この制度は,本研究科に提出された学位論文の審査及び申請者の学力(英語を含む)の確認試験により,学位を授与しようとするものである.学位論文審査及び学力確認試験は,課程博士制度と同じような形態の審査委員会にて行われる.この制度により学位申請をする場合には,研究歴や基礎となる学術論文の数,既発表学術論文の数など様々な規定があるので,申請を希望する人は,まず,構成大学・連携研究機関の本研究科担当教員あるいは本研究科専任教員に相談し,申請資格が有るか否か確かめる必要がある.申請資格があって学位を申請する場合,学位論文の作成から各種申請書類の準備,審査委員会の設置及び開催,審査結果の研究科委員会への報告まで,一連の手続きを責任もって世話していただける教員(推薦教員:本研究科の主指導教員有資格教授)が必要である.
 (5)検定料と授業料等
 入学試験の検定料は30,000円,入学料は282,000円,授業料は半期267,900円(年額535,800円)である.論文博士制度による学位審査手数料には57,000円が必要である.
 博士課程に在籍する学生には,日本学生支援機構による奨学金貸付制度及び奨学金返還免除制度がある.本研究科では,これらの申請にあたり,貸付制度にあっては入学試験での英語試験の成績,免除制度にあっては研究業績をはじめ6項目の評価点をもとに,それぞれ推薦順位を決めている.

 3 入学状況,学位授与状況,修了後の動向
 入学定員は15名,収容定員は60名(15名×4年間)である.しかし,表2にあるように,設置初年度の平成2年度から現在まで,平成6年度を除いて毎年定員を上回る20〜30名前後の入学者がある.平成19年4月現在の在籍者は124名で,そのうち34名が外国人留学生である.企業や自営業(開業獣医師など)に就いている入学者(社会人学生)は年々増加傾向にあり,現在,在籍者の18%(22名)が社会人学生である.
 表2には,学位授与状況も示してある.平成18年度末までの累計では,課程博士の学位取得者が232名(うち短縮修了生15名),論文博士の学位取得者が82名である.現在の在籍者124名のうち過年度生(4年以上在籍している者)は3名である.
 博士課程修了者と論文博士取得者の就職先(職域)をそれぞれ表3に示してある.前者の79%,後者の84%がそれぞれ大学等の教育研究職,民間・国公立研究所研究職に就いている.

 4 お わ り に
 以上が獣医学博士の取得についての東連獣からのメッセージである.これを機会に東連獣を記憶に留めていただければ幸いである.
 なお,課程博士,論文博士を問わず,学位取得に関心のある方や挑戦を考えている方は,本研究科のホームページ(http://www1.gifu-u.ac.jp/~rendai/)を一度参照いただきたい.また,募集要項や研究科概要が入用の場合は,連合大学院事務室に連絡願いたい.
岐阜大学大学院連合獣医学研究科・連合獣医学係
〒501-1193 岐阜市柳戸1-1
TEL 058-293-2987 FAX 058-293-2992
E-mail : renju@gifu-u.ac.jp

 

表2

 

表3



† 連絡責任者: 小森成一(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
〒501-1193 岐阜市柳戸1-1
TEL 058-293-2987 FAX 058-293-2992 
E-mail : renju@gifu-u.ac.jp