日 本 獣 医 師 会 会 誌

巻頭言

日本獣医師会会長就任にあたって

社団法人 日本獣医師会
会長 山 根 義 久
 梅雨が明けないまま台風の4号の襲来,さらに新潟地方を中心とした中越沖地震発生と自然の猛威には,改めて人間の無力さを感じます.
 会員そして全国の構成獣医師の皆様におかれましてはご壮健にてご活躍のことと推察申し上げます.日頃より日本獣医師会へのご支援とご協力をはじめ,地方におけます社会への貢献に対して厚くお礼を申し上げますとともに,その活動に敬意を表するものであります.不肖,私,去る6月29日の日本獣医師会第64回通常総会における役員改選の結果,再び会長に就任することになりました.また,藏内勇夫,中川秀樹,両副会長及び大森伸男専務理事も再任,さらに各地区及び職域理事ならびに監事もそれぞれ選任されました.
 過去の一期2年間は,初めての経験ということもありとまどうこともありましたが,多くの方々の暖かいご指導,ご支援をいただき,お陰様で無事任期を全うすることができました.
 獣医師会に関係する職域は,多分野に及びそのいずれもが国民生活にとって必要不可欠なものばかりであります.改めて獣医師会の果たす役割に大きな責任を感じる次第です.今後,過去2年間の経験を踏まえて山積している問題の一つずつに対し,しっかりと対応しなければならないと心新たにしているところであります.
 過去2年間を振り返りますと,獣医師の社会的認知度ともいえます叙勲が17年度で12件,褒章が2件,18年度でそれぞれ10件と2件,すべて長年の活躍と業績に対し評価されたものであり,その中でも前日本獣医師会長の旭日重光章は特筆すべきものであり,いずれも獣医界にとり大変に名誉なことでもあります.
 また,昨年の3月に茨城県獣医師会のご支援によりつくば国際会議場で開催された,学会年次大会の開催に当たりましては,秋篠宮殿下の記念講演をいただき,また本年の2月に開催されました埼玉県獣医師会との共催の年次学会では,狂犬病の外国感染による死亡例が発生したこともあり,市民公開シンポジウム等多くの新企画が組まれ,いずれも盛会裡に終了しましたことは慶賀にたえません.
 一方,日本獣医師会においては,平成17年度より多くの要請活動も行って参りました.特にケタミンの麻薬指定につきましては,動物医療における使用が,多種多様な動物種に及ぶこと,また,ケタミン製剤の適用は,鎮痛目的の麻酔効果のみならず,逸走動物等の不動化措置等幅広いものがあり,その麻薬指定の移行に際し危惧する面もありましたが,関係機関の多大なるご協力,ご支援により大きな問題も生ずることなく経過しましたことは何より安堵するものであります.
 また,昨年の秋,外国感染により国内で死亡例の出た狂犬病につきましては,本年3月に狂犬病対策の充実・強化について厚生労働省健康局長より,飼育犬の登録と予防注射の徹底を図るために,都道府県と市町村並びに獣医師会とが緊密に連携・協力し,実施する必要がある旨の通知が発出され,従来より一歩踏み込んだ行政対応が示されました.
 一方,本年春に宮崎,岡山と立て続けに発生したH5N1の強毒性の高病原性トリインフルエンザに対しては,関係機関及び関係者の迅速でかつ的確なる対応により,短時日の中に終息宣言までもっていけたことは,国内は勿論のこと,現在でも本疾病の対策に苦慮している国々に対し,日本の防疫体制の優秀さを示したことになりました.
 また,2年間にわたり獣医事審議会で検討してきた「獣医療法第17条2項の規定に基づく広告制限の特例について」は,規制緩和の流れに沿って検討した中で,動物医療の質の確保を中心にすえ,違反者に対する行政処分を含め,実効ある措置を今後1年近くかけて審議し,ガイドライン作りに入ることになりました.
 さらに,昨年秋より検討されてきた「獣医師需給問題検討委員会」では,その内容が獣医学教育をはじめ多くの問題に発展する可能性があるため,慎重な審議をしていただきました.その結果,過不足を明確することなく終了した次第です.しかしこの件に関しては,その深い背景を考える時,さらなる注意と獣医師の職域偏在の是非に向け実効ある施策の推進が必要と考えます.
 前述の件を含めまして,今後さらなる検討を要する重要事項の一つに,獣医師会にとって避けて通れない公益法人制度改革があります.社団法人としての設立目的を踏まえた公益事業の円滑な推進と会計・経理機能を含めた組織運営の整備が求められることになります.
 今後,すみやかな新公益法人会計基準への対応が肝要であり,そのためには今から足腰を強くし,2足でしっかり立つ訓練が必要不可欠であります.
 その他に重要な案件としては,獣医学の根幹である獣医学教育の充実に向けての学部体制への整備,あるいは再編整備に向けての活動展開も不可欠であり「獣医学教育改善に向けての外部評価のあり方」の報告を出発点として,関係団体,機関と連携して推進に努める所存です.
 また,喫緊の問題として進めなければならない問題の一つにいわゆる動物看護師の制度化の問題があります.
 さらに,学校獣医師の制度化の問題,日本獣医師会の三学会の効果的・効率的運営の観点から組織及び運営のあり方を検討・協議することも必須であります.
 以上,今後検討を進めなければならない案件のいずれもが,国民の理解無くして成し遂げられないことは明白であります.
 そのためにも,本年10月7日に東京都庁広場で開催予定の日本獣医師会主催の2007動物感謝デーin Tokyo“The World Veterinary Day”は,市民や社会に獣医事を理解していただく好機かと思われます.是非とも会員諸士や関連機関,団体の強力な御支援をお願いするものであります.
平成19年7月 吉日

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