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地方会だより

九州地区獣医師会連合会の活動状況について

山上 勝(福岡県獣医師会小動物部会事務長・元福岡県獣医師会事務局長)

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 1 は じ め に
 九州地区獣医師会連合会(以下「九獣連」という)は,福岡,佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島,沖縄の8県と北九州市の9県市獣医師会(現在,会員獣医師4,000名)で組織され,昭和34年6月27日に13条からなる会則を制定,また,平成2年4月の九獣連総会(佐賀県獣医師会担当)において九獣連活動対策委員会運営規程を設け,諸般の活動を展開してきた.
 会則は,獣医業務の推進,獣医学術の研修,畜産の振興,獣医公衆衛生の発展等を目的とし,会長任期1年の持ち回りで各県市獣医師会に事務所を置き,取り巻く諸般の社会情勢や発生する重大事項等への適確な対応に努めており,九獣連会費は1獣医師会20万円の負担となっている.
 年間の主要行事は,年度当初に開催の通常総会(4月上旬)で前年度担当獣医師会から事務を引き継ぎ,各県市獣医師会の年度総会が終了する6〜7月に事務局長・事務局職員会議に引き続き会長会議を開催し,当該年度の事業計画の承認を得ている.初期の頃,事務局会議では開催県の名所旧跡の視察等も企画されていたが,現在は会議のみになっている.次いで,8月には九州各県の公衆衛生課長会と獣医師会長会との合同会議が持たれ,狂犬病予防事業に係る諸問題を中心とした協議が行われて来たが,今日では,集合注射の推進の外,動物愛護に関する協議も盛んに行われている.
 また,10月にはメインの行事である地区大会・三学会の開催となる.このイベントについては,現在,1獣医師会当たり30万円を拠出し,日本獣医師会からの助成金を加え,開催担当県の準備金を合わせて1千万円弱の予算で開催している.
 地区大会の主要行事は,各県市獣医師会から提出された議案の審議・採決,大会宣言案の採択を行い,採決議案をもって要請書を作成し爾後の関係機関・団体等への要請活動に資してきた.また,表彰行事としては,各県市獣医師会からの進達に基づき日本獣医師会会長褒賞(表彰状,感謝状)の下付申請を行うと共に九州地区獣医師会連合会会長表彰を併せ行い,会場壇上にて永年に亘る業界功労への感謝の意が表されてきた.
 産業動物,小動物,公衆衛生の三学会については,学会の独立性の観点から平成2年の佐賀県担当の大会・学会時以降,一学会当たり40万円/年を交付し,学会の開催・運営に供してきた.特筆すべきは,小動物学会では地区学会長及び学会評議員のご労苦により,初めは症例報告会として出発し,現在は卒後研修会として年1回の開催が定着し,学会の緊張した雰囲気と異なり,若い先生方の登竜門としても活気に満ちた勉強会になっている.坂井次男前佐賀県獣医師会長の先見の明に感謝の意を申し上げたい.
 なお,大会・学会は1日又は2日間で開催され,開催前日は日本獣医師会会長をお迎えし,各県市獣医師会の会長・副会長並びに事務局担当者を交えての懇親会が開催されるとともに,翌日の大会・学会終了後には参加会員による懇親会が華やかに行われている.

 2 九獣連小動物対策委員会について
 (1)設立の経過
 福岡県獣医師会小動物部会(部会長 松村健司)は平成9年度総会の決定を受け,平成9年6月6日付けで本会(会長・藏内勇夫)宛に九州地区小動物臨床獣医師連絡協議会の設置準備について九獣連への取り成しを依頼した.
先ず,平成9年の事務局長会議(熊本)で事前協議をお願いし,平成10年8月6日の九獣連会長会議(北九州)で設置が承認された.併せて,名称を「九獣連小動物対策委員会」とし同委員会の開催要領も決定された.
 (2)開催要領の要点
 本委員会は,九獣連活動対策委員会運営要領に基づき連合会長の諮問に応じて開催することとし,委員会の招集は委員長から連合会長への招集要請により各県市獣医師会長への開催通知が行われる.開催に要する経費は,旅費については各県市獣医師会負担とし,会議費は連合会負担でお願いしている.
(3)委員会の開催
 連合会長が諮問する事項は,おおむね学術的課題,獣医事課題,獣医療情報の提供とし,年2回の範囲で各県市持ち回りを原則に開催,平成10年北九州市獣医師会,平成11年沖縄県獣医師会担当を経て,平成12年以降は福岡県獣医師会(小動物部会長12〜13年松村健司,14〜18年溜渕真之)が担当して現在に至っている.
 委員会での協議事項は,設立当初は各県市の小動物部会組織の強化・充実に資するため部会規約や部会予算等の資料提供をお願いし相互の参考に供するとともに独自の事業計画の紹介や各獣医師会が抱えている課題や法令違反事例等についても披瀝し合いながら会議を進めてきた.その後,後述のヤマネコ保護活動支援の現地派遣獣医師の調整も会議の主要議題としてきた.最近においては,日本獣医師会の部会制導入を機にブロックとしての今後の体制について,どのような提起があっても対処していけるよう協議を進めているところである.

 3 九獣連ヤマネコ保護協議会について
 (1)設立までの経緯
 福岡県獣医師会は,1996年に福岡市で開催された「人と動物の関係学会」を機に理事会等で野生鳥獣の保護に関する協議を進めていたが,平成12年4月7日の九獣連総会(沖縄県那覇市)において藏内勇夫福岡県会長からツシマヤマネコ,イリオモテヤマネコの保護活動支援の提議がなされ,九獣連として取り組むことが全会一致で承認された.併せて,事務局を福岡県獣医師会に置き,とりあえず,一獣医師会あたり負担金10万円を拠出し計90万円で準備をすることになり同年6月2日の九州各県市獣医師会の会長・事務局長会議〔県市別会長・事務局長(福岡県・藏内勇夫,原口徹朗,佐賀県・坂井次男,吉山文蔵,長崎県・原 京平,竹下正興,熊本県・穴見盛雄,市原勝則,大分県・広瀬 一(副会長),友 宗平,宮崎県・山元敏進,木村直也,鹿児島県・楠本薩男,豊田方 稔,沖縄県・高良忠清,知花 健,北九州市・中馬精二,柏木 弘)〕に諮り,ヤマネコ保護活動支援事業に関する(1)趣意書(2)事業実施要領(3)12〜14年度3カ年の計画概要(4)平成12年度事業計画及び収支予算の承認をいただき,取り組みを始めた.
 先ず手始めに,平成12年6月14日付けで日本獣医師会及び日本動物保護管理協会の協賛依頼を,7月5日付で九州各県当局に対する後援要請を行った.
 次に,平成12年度の九州地区獣医師大会に併せて12月16日にホテル日航福岡を会場に市民公開シンポジウムを開催,「希少動物と私たち,種の保存と獣医師の使命」と題して著述業・柚木 修氏による基調講演をお願いし,その後,パネラーに長崎県県民生活環境部自然保護課長・上杉哲郎氏,漫画家・岩本久則氏,九獣連会長・藏内勇夫氏にご登壇願いディスカッションを行った.
 これらの取り組みは,各地方紙等で取り上げられ,理解と協力の輪が次第に広がって行った.また,漫画家の岩本久則氏によるヤマネコのイラストでステッカーを作成し,啓発的な活動も進められた.
 一方,平成13年度からの事業実施に備え,九獣連内部においては会員1人あたり1,000円/年の拠出を決定するとともに環境事業団の平成13年度地球環境基金助成金に応募し250万円の助成金を受け爾後の動物診療所の設立と診療活動の円滑な推進と運営に資するに至った.
 (2)西表及び対馬の動物診療所の開設について
 沖縄県の西表動物診療所は,同県竹富町離島振興総合センターの一室をご提供いただき平成13年7月21日に,長崎県の対馬動物診療所は,NOSAI県北対馬支所上県出張所をご提供いただき平成13年7月25日にそれぞれ開所した.開所式には九州各県市獣医師会長はもとより環境省自然保護事務所関係,各県の知事,担当部局の長,地元町長外有識者らの多数のご参列をいただいた.
 特筆すべきは,西表への日本獣医師会・五十嵐幸男前会長の遥々のご参列であった.ここにあらためて深く感謝の意を表したい.
 (3)診療活動の概要
 診療所の開設は沖縄県及び長崎県の両獣医師会を開設者に診療設備及び獣医師の派遣等は協議会の調整の元に進めてきた.
 診療の内容は,[1]飼い猫・野良猫の避妊去勢手術,[2]ネコのウイルス感染症の抗原抗体調査,[3]ネコの伝染病ワクチンの接種,[4]腸内寄生虫検査と駆虫,[5]マイクロチップの埋め込みを主な業務として実施してきた.
 平成13年から18年の6年間の活動実績は,両島に派遣した獣医師は延べ325人,診療頭数1,106頭で避妊手術587頭,去勢手術283頭に上っている.
 病院診療を休み,列車,飛行機,船を乗り継ぎし遥かな離島への診療に惜しまぬ活動に参加された先生方に深く敬意の念を表する次第である.また,以上の企画・推進には会長を補佐しての杉谷篤志副会長の献身的ご尽力の大なる事を付記させていただきたい.
 (4)追   記
 九獣連ヤマネコ保護協議会は,九獣連の取り組みとして旗揚げをし平成12〜14年を第1期,平成15年〜17年を第2期として継続,平成18年からも更に3年間の実施が決定されている.この間,九獣連下の4,000人の獣医師会員の1,000円/年の拠出金を原資として事業を展開されてきた.これまでの事業実績を分析評価を行い,より実効のある事業展開が期待される.
 最後に,奉仕の精神と使命感を持って一致した獣医師組織の活動に対し行政等の支援の目が向けられることを期待したい.

 

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