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横浜夜間動物病院を開業して得たもの
藤井康一†(藤井動物病院院長・横浜市獣医師会会員)
私の父は獣医師であった.昼夜を問わず仕事をしていたことを良く憶えている.そして夜間診療も自ら行っていた.父の時代はすべての分野を一人でこなすのが普通であった.私が獣医師として働き始めた頃は,まだ昼間の診療頭数に比べてそれほど夜間診療は多くなかったので,夜起きて診察してもそれほど翌日には影響はでなかった.もちろん若かったせいもあるだろう.しかしながら,私の住む横浜ではここ最近10年間で夜型の生活をする人々が増えたためか,別に急患でなくても診療を希望する飼い主が増えてきた.このような若い世代の夜型人間のニーズに対応するため,研修獣医師を多く雇い,ローテーションを組んで当直を依頼した.しかしながらこの方法は,健康面で,獣医師の労働条件を悪くすることとなり,このような声が徐々に周りの獣医師からも聞かれるようになってきた. 当時「専門医」という言葉は聞かれるようになっていたが,それより獣医師自体の労働条件や地位の向上が必要と思い,まず夜間専門の病院の設立を決意した.「内科」,「外科」などより緊急医療や夜間診療の「専門医」が現実的に必要と考えたのである.幸いなことに,関西地区では大規模な夜間専門動物病院が運営されており,私は大阪に足を運び夜間専門動物病院運営に携わっている先生方にお会いすることとした.そこで獣医師の方々がボランティア精神と社会貢献への高いそのモチベーションをもつ姿勢の気持ちの強さに感動した.しかし,私には一つさらに不安材料が増えることとなった.それは横浜にもこの先生方のような理念をもった獣医師が集まるのだろうかと言うことである.病院や器具,機械は金銭があれば整うが,人材の面はそうはいかない.しかしながら大阪の先生方に励まされ,横浜で本格的に取組むこととした. 今回,初めから夜間病院の立ち上げに賛同した人数は6名程度であったため,もう少し発起人の人数を得たかった.私が,獣医師になったのも獣医師であった父の影響であり,また獣医業で得た収入でここまで成長できたとの思いもあって,二代目は獣医界に少し恩返しをするべきだと考えていた.そのような考えからきっと二代目の獣医師は賛同してくれると思い,二代目の先生方にも声をかけた.そして,人数が11名となったが,さらに人数を集め,少なくとも30人を発起人としたかったため,周囲の先生方一人一人に声をかけ,協力をお願いした.中には大反対する先生もいた.このときやはり横浜では実現しないと不安がよぎった.その後,一通り説明会などを開催したところ,予想以上の人が賛同し,54名の発起人を得た.この発起人のグループをDVMs(Dedicated Veterinary Members)「献身的な獣医師の仲間」という意味の名前として会社を立ち上げ,横浜夜間動物病院を2004年1月に開設することができた.そして何より集まった横浜の獣医師は,ボランティア精神旺盛で,驚くほどの献身的な行動力をもっており毎夜集まっては話合いが行われた.その人数も3年後には70名近くになり,いまだに増え続けている. 私は横浜で夜間専門病院を皆と立ち上げたことで,大変大きなものを得た.まず第一は多くの飼い主が喜んでくれたこと.多くの獣医師はサービスの低下を懸念されてると思うが,夜間病院の設備や対応を多くの飼い主から評価されている.第二に開業されている獣医師の方から,夜の診療が少なくなり,睡眠がとれたり,自由ができたという話を聞くようになったこと.私自身もこの夜間病院を始めるまではメタボリック症候群であったが,夜間に歩行などをはじめ今では健康も手に入れることができた.第三にこれが最大の収穫であるが,獣医師の仲間を得たことである.大阪をはじめ色々な地域の先生方と夜間病院を通して知り合えたこと,そして私の地域にこれほどまでに,ボランティア精神と社会貢献に対する高いモチベーションをもった,すばらしい獣医師が大勢いたことを再認識したことだ.そして新たに夜間動物病院を始めたいという各地域の先生方が我々のもとを訪れ,そこに新たな獣医師の輪が広がっていることである.このような財産を手に入れたことは私の人生において最大の喜びである.そして,これからもこのような先生たちが獣医界を進化させていくのだろうと感じて止まない. |
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† 連絡責任者: | 藤井康一(藤井動物病院) 〒222-0011 横浜市港北区菊名1-1411 TEL 045-401-0229 FAX 045-433-1932 E-mail : fujiidvm@gd5.so-net.ne.jp |