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馬耳東風

 たとえ自分の卵子でも,代理出産で出産してもらった子は実子とは認められないと,最高裁判所が決定を出したというニュースを新聞で読んだ.つまり「卵子を提供した場合でも,母子関係の関係成立は認められない」との判断を示したものだ.これにはへ〜と驚いた.われわれの世界というか,畜産の世界では絶対に通用しない判決だ.畜産の世界では,もう30年以上も前から胚(受精卵)移植が実用の段階に入っているが,その当初から出生した子が出産した母親の子であると認める人はただの一人も居ない.ましてや法的に,すなわち家畜登録において,胚移植により出生した子の借り腹であった母畜を母親と認めることは絶対にあり得ない.
 一般的に言って,人工授精をはじめとし,元来生殖技術は家畜での応用が人の産婦人科での応用に先んじて行われている.特に我が国では,国の政策もあって家畜繁殖の技術はその底辺は広く,まず世界のトップクラスであると言えよう.また家畜の世界であるからといってその血統を軽んずる理由はないので,親子関係もきちんと説明できる仕組みになっている.これは純粋に科学的な根拠に基づくものだ.人工授精の場合でも,提供精液の由来はきちんと証明書をつけなければならない.そうでなければ血統なんてむちゃくちゃになる.
 冒頭の一件は,現実に実施された米ネバダ州の裁判所では実子であることを認められているが,たまたま日本人であったため,区役所に出生届を出した時点において問題となった.区役所は法務省の意向も踏まえてこの出生届を受理しなかった.しかし東京高裁では「公の秩序に反する」と言う理由で出生届を受理するように命じている.ところが最高裁では「民法では母子関係の成立は認められない」ということで親子関係を認めないことにしたのだ.我が国ではこれ以上不服を申し立てる制度は無いので,これで確定である.最高裁は日本の民法に照らして生んだ女性を母とする判断を示したのだ.
 話は少々変わるが,「離婚後300日以内に出生した子は前夫の子と見なす」という規定が話題になっている.昔からの「十月十日」に由来する規定であろうが,これも科学的ではない.最近法改正が話題になっているが,担当大臣は性道徳云々を理由に法改正には積極的ではない.これはおかしい.道徳云々はまた別な話であって,いかなる合法行為であっても,公序良俗に反する行為は法の保護対象にならないのが法の大原則ではないか.
 日本の最高裁判所の裁判官に,「提灯に火をつけて持ってきてくれ」と頼んだら,きっと提灯を燃やしながら持ってくるに違いない!
(子)