楠原征治氏 |
新潟県獣医師会会員である楠原征治氏(写真)が農業分野の優れた研究を顕彰する日本農学賞(第44回読売農学賞)を日本農学会(鈴木昭憲会長)から授与された.日本農学賞は8名が選ばれ,4月5日に東京大学山上会館で記念講演と授賞式が行われた.
先生は1965年3月に帯広畜産大学畜産学部獣医学科を卒業し,東北大学大学院農学研究科修士課程修了後,同博士課程を中途で止め,1970年4月に新潟大学農学部助手となり,1978年8月から2年間,米国ペンシルバニア州立大学客員研究員として留学後,新潟大学で助教授,教授として2007年3月退官するまで永年にわたり研究と教鞭を執られてきた.
このたびの受賞課題は「鳥類の卵殻形成における骨髄骨の機能解明に関する先駆的研究」である.雌鶏は産卵期になると,骨の中の骨髄腔に網目状の骨が発現することに着目し,この骨を「骨髄骨」と名づけ,卵殻形成に必要なカルシウム貯蔵庫であることを突き止めるとともに,この骨髄骨が鳥類特有の産卵期のカルシウム代謝調節に,中心的役割を担っていることの重要性を指摘された.また,国内で多大な損失を蒙っている軟・破卵の発生に,この骨髄骨が果たす役割を考察し,軟・破卵予防のための飼料の研究開発に取り組まれてきたことは,特筆すべきことである.
また世界に先駆けて,骨の細胞にエストロジェンレセプターが存在することを骨髄骨で確かめ,骨髄骨がエストロジェンの直接作用によって形成されることの実証は賞賛に値する研究で,エストロジェンと関連の深い人間の骨粗鬆症への解明と治療の研究に大きく貢献するものと評価されている.さらに最近,米国の恐竜研究者により約7000年前のティラノサウルスの化石から鳥類の特異組織の骨髄骨が確認され,鳥類の恐竜起源説を支持する確証とともに,骨髄骨の存在から産卵期の雌であることも判明したが,先生の骨髄骨に関する研究がこの大発見の一助になったことは高く評価されている.このような骨髄骨の基盤的,応用的研究は今後とも多用な成果が期待され,高品質な卵生産のみならず,多方面で活用されるものと思っている.
先生は産卵鶏の骨髄骨に関する研究以外にも,養豚産業に多大な被害をもたらしている豚の骨軟骨症などの研究にも従事されてきている.引き続き実績と経験を基に専門家として,その成果を社会貢献に資することを期待している.
|