会報タイトル画像


解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(XX)
― エキゾチックアニマルに由来する移入生物(7)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

9 ペットとしての魚類に由来する移入生物
 魚類は,一部の種を除いて,エキゾチックアニマルあるいはエキゾチックペットとして扱われることは少ない.金魚や鯉,多種の熱帯魚が古くから観賞魚として飼育されているが,厳密にいえば,これらはペットではなく,まさに観賞用である.
 しかし,本稿においては,観賞用の魚類も広義のペットとして考え,そのなかで移入生物として大きな問題になっている種,あるいは移入生物としての定着が危惧される代表的な種を以下に略述する.加えて,観賞用に飼育されることは少ないが,ボウフラ駆除のために導入されたものや,釣りの対象として知られ,移入生物として重要視されているものについても述べることにする.

(1)タイリクバラタナゴ(図1)
 タイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatusは,コイ目Cyprinoidei,コイ科Cyprinidae,タナゴ亜科Acheilognathinaeに属する.
中国及び台湾を原産とするが,1940年代の初めに日本への移入が起こっている.当時は関東地方に定着したようであるが,その後,琵琶湖などにも分布を拡大している.
 タイリクバラタナゴの雄は,繁殖期(3月〜9月)にバラ色の婚姻色を発現し,非常に美しくなる.このため,観賞用に広く飼育され,その遺棄なども本種の分布拡大の一因になっていると思われる.
 このタナゴは,他種のタナゴ類と同様に,ドブガイなど,淡水に生息する二枚貝に産卵するという習性を有する.生殖に際して,雌は長い産卵管を貝の出水孔に挿入して産卵を行い,その直後に雄が入水孔の上で放精する.そして,精子は貝の体内に入り,貝の内部で受精する.
 日本にはもともと,日本固有亜種として,タイリクバラタナゴと同種別亜種のニッポンバラタナゴR. o.kurumeusが琵琶湖や淀川水系,九州北部の河川などに生息していたが,タイリクバラタナゴの定着により両亜種の交雑が起こり,ニッポンバラタナゴの純系が失われつつある[4].
 また,前述のようにタイリクバラタナゴは二枚貝に産卵を行うため,同様にドブガイなどに卵を産むゼニタナゴAcheilognathus typusやその他のタナゴ類と競合することが懸念される[4].
図1 タイリクバラタナゴ
図1 タイリクバラタナゴ

(2)カダヤシ
 カダヤシGambusia affinisは,カダヤシ目Cyprino-dontiformes,カダヤシ科Poeciliidaeに属する.
 アメリカ合衆国のミシシッピ川からメキシコ北部にかけての地域に生息する.
 カダヤシ(蚊絶やし)という和名のとおり,本種とその近縁種は蚊の幼虫であるボウフラの駆除のために世界各地に導入され,移入種として定着している.
 日本においても,1910年代の初めに上記の目的で意図的に導入されて以降,カダヤシの定着は各地で認められている.
 カダヤシは,在来の魚類であるメダカOryzias latipesと競合することが推察されるが,その一方,両種の食性が異なることから,競合の程度は低いという見解もある[7].

(3)グッピー(図2,3)
 グッピーPoecilia reticulataもカダヤシ科の魚類である.
 南米の原産で,観賞魚として広く飼育され,多くの品種が作出されている.
 日本では,観賞魚としての養魚場からの逸出や飼育していた個体の遺棄により,野外にも生息するようになっている.ただし,ある程度の高温の条件下でなければ野外における定着は難しいようで,グッピーの生息が確認されているのは主に温泉地である.また,沖縄島にも定着しているという.
 グッピーが定着することにより,カダヤシの場合と同様に,メダカとの競合が懸念される.ただし,温泉地や温暖な地域以外に分布を拡大することは考えにくく,そのため,グッピーの定着の影響は比較的軽微であると判断される.
図2 グッピー(野生種,上:雌,下:雄)
 図2 グッピー(野生種,上:雌,下:雄)
図3 グッピー(改良品種〔モザイク〕,上:雌,下:雄)
 図3 グッピー(改良品種〔モザイク〕,上:雌,下:雄)

(4)ブルーギル(図4)
 ブルーギルLepomis macrochirusは,スズキ目Perciformes,スズキ亜目Percoidei,サンフィッシュ科Centrachidaeに属する.
 北米大陸の原産である.
 釣りの対象の魚として意図的に放流されたり,あるいは他種の魚類の放流種苗に混入して全国的に分布が拡大したと考えられる.
 ブルーギルは雑食性で,魚類や魚卵,甲殻類,水生植物などを摂取し,これらの生物の個体数の減少を引き起こしている[5].
図4 ブルーギル(上)とオオクチバス(下)
図4 ブルーギル(上)とオオクチバス(下)

(5)オオクチバス
 オオクチバスMicropterus salmoidesも,ブルーギルと同じく,サンフィッシュ科の魚類で,北米大陸の原産である.
 本種とコクチバスM. dolomieuを総称して,一般にブラックバスという.
 オオクチバスが日本に導入されたのは,1925年に芦ノ湖に放流されたのが最初である.このとき,コクチバスも同時に導入されている.当時は,この2種の魚類の著しい捕食性を考慮し,芦ノ湖からの持ち出しは禁止されていたという.
 しかし,1960年代の中頃からオオクチバスは次第に分布を拡大し,現在では全国に生息するようになっている.オオクチバスの分布の拡大は,釣りの対象として,さまざまな水系に意図的に放流されたことが大きな原因になっていると考えられる.
 オオクチバスは肉食性(主に魚食性)で,他種の魚類を捕食する[9].また,捕食する量も著しく多い.このため,オオクチバスが定着した地域では,多くの種類の魚類が個体数を低下させる結果となっている.特に琵琶湖では,漁獲量が低下し,オオクチバスは移入生物として大きな問題を引き起こしている.また,オオクチバスは,水面近くに飛来したトンボ類も捕食し,トンボ類に対する捕食圧も懸念されている[8].
 現在となっては,オオクチバスの駆除はきわめて困難といわざるをえない.また,オオクチバスの釣りに関しては,リリースを禁止するなどの措置がとられているが,従来からオオクチバスあるいはブラックバスの釣りの愛好者はキャッチ・アンド・リリースを好む傾向があり,リリース禁止への反発が強い.
 なお,コクチバスも,オオクチバスと同様に移入生物として問題になっている[10].

10 ペットとしての無脊椎動物に由来する移入生物
 無脊椎動物も,さまざまな種がペットとして飼育されている.そのなかにも,移入生物として定着しているものや,定着が危惧されるものがある.ここでは,それらのうち,外国産のクワガタムシ類とカブトムシ類及びアメリカザリガニについて簡単に述べるにとどめたい.

(1)外国産クワガタムシ類とカブトムシ類
 クワガタムシ類とは,甲虫目(鞘翅目)Coleoptera,カブトムシ亜目(多食亜目)Polyphaga,コガネムシ上科Scarabaeoidea,クワガタムシ科Lucanidaeに属する昆虫の総称である.また,同じくコガネムシ上科のコガネムシ科Scarabaeidae,カブトムシ亜科Dynastinaeに属する昆虫を総称してカブトムシ類という.
 近年,多種のクワガタムシ類とカブトムシ類が輸入され,さらには国内で飼育下において繁殖が行われ,ペットとして広く流通している.
 これらの甲虫類が日本の野外において散見されるようになりつつあるが,その由来はペットとして飼育されていたものの逸出あるいは遺棄であると思われる.
 こうした種が日本において広く定着する可能性はそれほど高くはないかもしれないが,定着した場合には,在来種との競合や交雑などが起こることが懸念される[1].
図5 外国産カブトムシの一種ヘラクレスオオカブト(標本,左:雄,右:雌)
図5 外国産カブトムシの一種ヘラクレスオオカブト(標本,左:雄,右:雌)

(2)アメリカザリガニ
 アメリカザリガニProcambarus clarkiiは,十脚目Decapoda,アメリカザリガニ科Cambaridaeに属する甲殻類である.
 アメリカ合衆国を原産とする.日本への導入は,1930年に神奈川県大船市の養蛙池に放流したのが最初である.これは,食用とするためにすでにアメリカ合衆国から輸入されていたウシガエルRana catesbeianaの餌とするためであった.しかし,それが逸出して繁殖し,現在では日本各地に広く生息するようになっている.すなわち,人間の食用にすることを意図したウシガエル[3, 6]と,その餌とすることを目的として導入したアメリカザリガニは,ともに移入生物として日本に定着したわけである.
 その後,アメリカザリガニはペットとして飼育されている.ペットとして飼育されたアメリカザリガニの逸出や遺棄も,その分布拡大の一因となっている可能性があろう.
 アメリカザリガニによる被害としては,水草や稲への食害が知られている[2].
図6 アメリカザリガニ
図6 アメリカザリガニ
(以降,次号へつづく)


引 用 文 献
[1] 荒谷邦雄:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,158-159,地人書館(2002)
[2] 伴 浩治:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,169,地人書館(2002)
[3] 深瀬 徹:日獣会誌,60,248-250(2007)
[4] 加納義彦:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,110,地人書館(2002)
[5] 中井克樹:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,119,地人書館(2002)
[6] 太田英利:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,106,地人書館(2002)
[7] 佐原雄二:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,115,地人書館(2002)
[8] 須田真一:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,121,地人書館(2002)
[9] 淀 太我:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,117,地人書館(2002)
[10] 淀 太我:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,118,地人書館(2002)



† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
TEL 0424-95-8859 FAX 0424-95-8415