【議 事】
以下,森 英介事務局長の進行により議事が進められた.
1 報告事項
宮路和明幹事長から,次の事項について資料に基づき説明された後,承認された.
(1)会員の異動
入会 衆議院15名 参議院6名
退会 衆議院2名 参議院1名
現在 衆議院40名 参議院21名
(2)会計報告
獣医師問題議員平成18年収支報告
(3)そ の 他
ア 獣医師問題議員連盟設立趣意書(案)
イ 獣医師問題議医連盟規約(案)
2 議 題
(1)狂犬病の予防接種について
ア 狂犬病対策への取り組みについて,厚生労働省健康局結核感染症課感染症情報管理室・滝本室長から,以下のとおり説明が行われた.
(ア)狂犬病予防法に基づく犬の登録,予防注射の推進について
日本では,昭和25年の狂犬病予防法施行後,7年間で狂犬病を撲滅したが,世界では年間約5万5千人が死亡しており,わが国でも昨年11月にフィリピンからの帰国者2名が本病を発症,死亡した.
また,動物の密輸やロシア船からの犬の不法上陸等,狂犬病に罹患した動物が侵入することも危惧される.
このような状況を踏まえ,狂犬病予防法に基づく業務である,都道府県における放浪犬の捕獲,市町村での鑑札及び狂犬病予防注射接種済票の交付,獣医師による予防接種については,三者が一体となった取り組みが必要不可欠であることから,前回の獣医師問題議員連盟総会において示された要請事項である自治体と獣医師会の地域ネットワークの推進について,厚生労働省健康局長から自治体あて都道府県あて通達した.
(イ)狂犬病予防法施行規則の一部を改正する省令の交付等について
鑑札及び予防注射済票の装置は,狂犬病予防法で義務化されているが,近年の飼育犬の小型化等により,従来のものでは装着が困難となり,装着率は25%という状況となった.このため装着率の向上等を目的に,自治体における鑑札及び済票の様式の自由化について,11月にパブリックコメントを求め,原案を修正し,3月2日付けで狂犬病予防法施行規則の一部を改正する省令を交付(4月1日に施行)し,鑑札と済票の記載要件,様式の最低限の形状を国が示すが,市町村は独自に様式を定められることとした.
(ウ)狂犬病感染予防等に関する広報
海外での狂犬病による死亡者の半数が,インド,パキスタン,中国と,アジア諸国が占めており,中国では南部を中心に多発しており,結核,エイズより死亡者数が多い.
狂犬病は発症すると100%死亡するので,渡航者は,このような地域では動物に近寄らず,万が一,狂犬病と疑われる犬に噛まれた際は,迅速に地元の医療機関で傷の手当てとワクチン接種を受ける旨記載した注意喚起のポスターを作成し,検疫所に掲示している.
なお,渡航者の事前のワクチン接種については,現在,渡航者の希望に沿うべく,ワクチンを増産している.
また,飼い主に対しては,4月〜6月の狂犬病予防注射月間に合わせて予防接種啓発用ポスターを作成,掲示している.
イ 次いで日本獣医師政治連盟(以下「政連」)へ意見が求められ,次のとおり発言された.
(ア)政連山根委員長から「12月に引き続き獣医師問題議員(以下「議連」)連盟総会を開催いただき厚くお礼申し上げる.本日の議題は大変重要であり,近々に対応する必要がある.狂犬病については,日本も本病の発生が想定される環境にあることを理解いただきたい.また,獣医師の需給についても,獣医学教育の充実という命題をもって取り組むことの必要性を認識いただきたい」旨説明された.
(イ)政連大森会計責任者から「狂犬病予防対策については,先生方に尽力いただき,厚生労働省健康局長通知において,狂犬病予防対策における自治体と獣医師会の地域でのネットワーク推進を明示されましたことを厚くお礼申し上げる次第である.今後,獣医師会では,地域において,都道府県,市町村とネットワークの構築に取り組む所存である.今回は見送られたマイクロチップについては,個体識別の国際標準であり,動物愛護行政と一体化の中で前向きに推進されることについて,さらにご指導いただきたい」旨補足説明された.
ウ 続いて,意見交換・協議が行われた.主な内容は,次のとおり.
(ア)議連大村幹事から「狂犬病に感染した犬に噛まれた際,どのくらいの期間で発症するのか,また,ワクチン接種は,どのくらいの時期に実施する必要があるのか」との質疑があり,厚生労働省から「狂犬病の潜伏期間は,人,犬共に30日以上,最大で7年という報告があるが,本病は噛まれた後,脳にウイルスが到達して初めて発症することから,噛まれた場所により発症までの期間が異なり,脳に近いほど早く発症することとなる.フィリピン帰国者の例は8月に噛まれ,11月に発症した.何より噛まれたら迅速に現地の医療機関でワクチン接種をする必要がある」旨回答された.
(イ)議連臼井幹事から「なぜ日本ではマイクロチップを導入していないのか」との質疑があり,厚生労働省から「マイクロチップでは,外見から犬の登録及び予防注射実施状況が認識できないため,狂犬病が発生した際,社会に不安を与えかねない.ついては,誰が見ても登録,予防注射を認識できるシステムが必要と思われる.なお,迷子犬の飼い主を探す際は,有効な手段であるので動物愛護部局と今後検討していきたい」旨回答された.
(ウ)議連宮路幹事長から「通達の内容について,都道府県担当者の会議等で説明する予定はあるのか」との質疑があり,厚生労働省から「例年どおり狂犬病担当者の会議を開催し,その場で説明する予定でおり,さらに,通達に基づく各自治体の取り組み状況等についても事後確認することとしている」旨が回答された.
(エ)議連太田幹事から「鑑札等は,首輪に装置することで認識できるが,首輪の装置が困難な犬種も考慮する必要がある.また,海渡航前の予防接種を義務化検討すべきではないか」との意見に対し,厚生労働省から「従来の鑑札は番犬等の大型犬には良いが小型犬には装着しずらいため,今回の改正により小型化し,形状も自治体で独自に定められることとした.ついては,首輪だけでなく,リードに装着可能な形状等も工夫していただきたい.また,渡航者の渡航期間,渡航場所,渡航時の行動により狂犬病に感染するリスクが異なるため,事前のワクチン接種を一律に義務付けることは困難である.そのため渡航者がその都度渡航に応じて接種を検討していただき,その相談は検疫所で対応することとしている」旨が回答された.
(オ)議連鳩山幹事から「動物愛護管理推進議員連盟の会長を務めているが,鑑札及び済票の小型化については,本連盟において積極的に推進してきた.マイクロチップについては,賛否両論あると伺っているが,今後動物愛護議連としても取り組んでまいりたい」旨説明された.
(カ)議連谷津会長から「中国では,北京オリンピックへの影響を危惧し,狂犬病の死亡者数を実数より少なく公表しているとの見解もあるが,実際はどのような状況なのか.また,ロシア船が犬を放置していく事例が説明されたが,ロシアでの発生状況はいかがか」との質疑があり,厚生労働省から「中国の死亡者数は政府の公式発表であるが,他国同様,実際に適正にサーベイランスが実施されているのかどうか疑問である.また,ロシアでは2003年の上半期の報告で250頭の犬が感染しており,ロシア船の停泊港においては,動物検疫所が都道府県及び市町村と対策協議会を設置し,ロシア語で犬の不法上陸を禁ずる旨の看板を設置したり,放浪犬の捕獲等を推進している」旨回答された.
(キ)議連宮路幹事長から「渡航者が海外での狂犬病の危険性については理解していない.事前のワクチン接種を推進すべきではないか」との意見に対し,厚生労働省から「狂犬病の発生地域にいかれる渡航者には事前のワクチン接種を励行いただきたい.事前の接種は,半年毎に3回に分けて実施する必要がある.また,噛まれた後は,直後,3日,5日,7日,14日,30日,90日後に接種する.犬は,ワクチンの効果が1年有効のため,年一度の接種が必要であり,毎年接種することで免疫が高まる」旨回答された.
(2)獣医師の需給について
ア 獣医師の需給について,農林水産省消費・安全局小林裕幸審議官から,以下のとおり説明が行われた.
(ア)獣医師需給検討会の設置
近年,ペットの増加,BSE,鳥インフルエンザの発生等,獣医師の需給をめぐる情勢が変化してきているが,従来,農林水産省では定量的な調査を実施した経緯はない.このような状況から,昨年11月「獣医師の需給に関する検討会」を設置し,日本獣医師会の中川副会長を含む,様々な分野の有識者により検討し,獣医師の今後の需給の推計作業を行っている.
なお,推計に際しての基礎データについては,獣医師法第22条に基づく届出数を基本とし,家庭動物,診療施設の実態等を調査して分析を行うこととした.
獣医師の実数については,免許取得者の死亡数が把握できないため,不明だが,日本人の平均の死亡率から算出すると,48,000人となる.
一方,22条に基づく届出数は,36,000人であり,12,000人の差については,人口推計から,半数が65歳以上であることに加え,獣医事以外の職に従事している者を考慮している.実動者は32,000人で小動物関係が13,000人(37%),公務員が9,000人(25%),産業動物が4,000人(12%)となっている.
また,本検討会は,傍聴が自由で,データも公開することし,客観性,透明性に努めている.
(イ)検討状況
11月の第1回委員会では,検討方針を定め,3月の第2回検討会では,データに基づく試算値を事務局が提出した.前提条件の置き方により,需給の見通しは異なるが,専家から,15年,30年後には,1,000名から5,000名不足するという推計が示された.なお,前提条件については,今後,引き続き検討する必要がある.
(ウ)今後の予定
現状,小動物関係従事者が多く,獣医学系大学の卒業生の半数が小動物志向であり,今後,家庭動物数を見込んだ検討が必要であり,一方,犬の寿命は,1990年の8.6歳から2002年には12歳に,猫は5.1歳から9.9歳と延びており,近年,家庭動物を大切にする傾向にあることが伺え,それに伴い,高齢化による病院の利用数も増加も考慮する必要がある.
今後の需給見通しについては,4月を目途に報告書を取りまとめ,客観的な数字を示す予定である.
イ 次いで政連へ意見が求められ,大森会計責任者から,「医師,歯科医師は9割以上が診療業務であるが,獣医師は職域が多様化しており,公務員が30%,診療獣医師が47%,(そのうち産業動物は30%),大学,研究所,会社の勤務獣医師が17%,獣医業以外の業務に従事する者が10%という現状である.また,近年,家庭動物の飼育数が増加しているものの,獣医学系大学の卒業生1,000人のうち半数が小動物分野へ進んでおり,都市部において小動物は供給過剰の傾向にある.このような職域が多様化する中で,地方公務員の獣医師職員の確保が困難,農山村地域での産業動物診療獣医師の不足等,一部職域において獣医師の偏在があるが,全体の数から不足しているとは言いがたい.
今後,高齢化社会における家庭動物飼育動物の状況,畜産基盤の動向の他,小動物診療の技術革新,診療施設の大型化,一次診療,二次診療のネットワーク化,さらに現在,動物看護士と称する動物医療補助者20,000人が獣医師のアシスタントとして獣医療の提供に携わっていることも,考慮する必要がある.そして,全体の人数は充足していることを念頭に,不足している職域に優秀な人材を確保するためには,まず獣医学教育の改善が必要不可欠であることを理解していただき,質の確保について議論いただきたい」旨説明された.
ウ 続いて,意見交換・協議が行われた.主な内容は,次のとおり.
(ア)議連山際幹事から「動物看護士は大変重要な役割を担ってるが,待遇に問題がある.資格制度もなく,各専門学校で各々認定している状況であり,動物医療の質を高めるためには,看護士も含めて検討すべきである.医療訴訟で看護士に責任が及ぶ事例もある」との意見に対し,「農林水産省から,家畜については獣医師の指導の下,業務に従事することとされている」旨説明された.
(イ)議連大村幹事から「歯科医師が過剰となるため,営利を目的に歯科医師側から犬猫の歯の診療を許可するよう要望があった.飼い主は家族の一員として人間の歯科医師に診てもらいたいと考えるかもしれないが,人と動物は異なるもので,明確に整理しておく必要がある.看護士についても,団体等の資格認定も考慮するのも一法であり,現実にあるべきモデルを行政と獣医師会が示すことも必要である」との意見が出された.
(ウ)政連山根委員長から「欧米では,核医学の治療等において補助者は必要不可欠な存在となっている.本会では,昨年,「動物診療補助専門職検討委員会」を設置し,検討を開始したが,早急に関係者による団体の設立すると共に,社会から補助者制度の必要性を理解いただき,獣医師を補助する動物医療提供者としての国家資格制度の確立を目指したい」との意見に対し,農林水産省から「動物医療の課題解決には,量と質の両者への取組みが必要であり,本検討会では,まず量の問題に取組み,その後,質の問題に取り組む予定である」旨回答された.
(エ)議連宮路幹事長から「厚生労働省,医師会では,医師は飽和状態にあるとの見解を示すが,農村,僻地では医師が不足している現実があり,今後,5年間,10大学で医学部の定員を増加することとなった.今後,BSE,鳥インフルエンザ等の家畜衛生,家庭動物の高齢化等の問題について対応する必要があり,特に畜産現場における大動物も診療獣医師,農業共済の獣医師の不足している現実に鑑み,獣医師の確保が必要である」との意見が出された.
(オ)議連森事務局長から「実感として,分野,地域により獣医師の不足が伺われる.近年,女性獣医師が増えており,能力はあるが,労力の面での不足が生ずることも考慮すべきである」との意見が出された.
(カ)政連山根委員長から「学生の中には,家畜衛生,公衆衛生を志望する者がいるが,実習で現場の状況を知って挫折する.四国では十数名の公務員獣医師を募集したが,応募者は1名という状況であり,公務員獣医師が適用される医療職の俸給は,あまりに低く,待遇の悪さから職域による偏在が生じている.これに対し,医師の偏在化は,待遇は優遇されていても,僻地には行きたがらず,産科,小児科は危険が伴い,多忙だから敬遠されるといった理由から生じている.小動物開業獣医師の場合でも,公務員よりはまだ良いと考え,開業するまでの5,6年間をわずかな収入で勤務する事例からしても決して恵まれた状況にない.一方,現在,国立大学では,1年を要する講義を非常勤講師が1週間で修了する等,優秀な人材を輩出するには困難な状況であり,予算措置もなく定員を増加すれば,大変な混乱をきたす.待遇改善はもちろんだが,獣医学教育の充実こそ喫緊の課題であることを理解いただくとともに,今後,補助者や管理獣医師制度が確立されれば,獣医師の定員増加は必要はないことを認識いただきたい」旨説明された.
【ま と め】
宮路幹事長から「本日は有意義な議論をいただき,お礼申し上げる.今後は,厚生労働省から都道府県の犬の登録,予防注射の推進状況を,また,農林水産省から獣医師の需給に関する検討会の報告取りまとめについて説明いただくこととする.次回は,連休以降に本総会を開催したい.」旨が告げられ閉会した. |