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資 料

ワクチン接種による狂犬病の流行阻止効果

新井 智   田中政宏   岡部信彦   井上 智

国立感染症研究所(〒162-8640 新宿区戸山1-23-1)

(2006年7月10日受付・2006年12月22日受理)

要   約

 世界保健機関(WHO)の勧告によると,犬の狂犬病は流行している地域の犬の70%にワクチン接種を行うことによって排除または防止できるとされている.近年,Colemanらは米国,メキシコ,マレーシア,インドネシアで報告された犬の狂犬病流行事例を利用した回帰分析の結果から犬の狂犬病流行を阻止できる狂犬病ワクチン接種率の限界値(pc)の平均的な推定値を39〜57%と報告している.しかしながら,上限95%信頼限界でのpcの推定値は55〜71%であり,ワクチン接種率が70%の時に96.5%の確率で流行を阻止できるとしている.理論的にはpcが39〜57%の場合でも流行の終息が可能と報告されているが,公衆衛生上の観点から流行を長引かせないで被害の拡大を最小限に押さえるためには,狂犬病の発生を的確に発見して流行を迅速に終息させる追加施策が必要になると考えられる.
―キーワード:狂犬病,ワクチン,ベーシックリプロダクションナンバー(R0).

------------------------------日獣会誌 60,377〜382(2007)

 

† 連絡責任者: 井上 智(国立感染症研究所獣医科学部)
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