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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(XIX)
― エキゾチックアニマルに由来する移入生物(6)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

7 ペットとしての爬虫類に由来する移入生物(続)
(5)カミツキガメ(図1)
 カミツキガメChelydra serpentinaは,カミツキガメ科Chelydridaeに属する.
 カナダ南部から南アメリカ大陸の北西部にかけて広域に分布し,数亜種に分けられている.
 大型のカメで,成体は甲長が50cmほどにも達する.また,非常に凶暴で,攻撃的である.自然界では比較的深い水中で生活していることが多いため,人間が被害を受けることは少ないが,陸上にあがった際には,著しい攻撃性を示すことが多い.
 カミツキガメは,かつて種々の体サイズの個体がペット用に販売されていた.特に幼体は安価で,1個体の価格が1,000円未満のこともあった.丈夫でもあり,多数が飼育されていたと考えられる.しかし,成長にともない,噛まれた場合や引っ掻かれた場合の危険性が増すため,遺棄されることが多かったようである.
 現在,日本の多くの地域でカミツキガメの生息が確認されている.このカメの本来の生息地の気候を考えれば,日本のほとんどの地域において,越冬することができ,さらに繁殖も可能であろう.カミツキガメの移入により,淡水に生息する日本の在来生物が捕食される など,多大な影響を受けることが懸念されている[8].
なお,カミツキガメは,現在は,「特定外来生物による生態等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)において特定外来生物に指定され,例外を除いて飼養が禁止されている.
図1 カミツキガメ
図1 カミツキガメ

(6)スッポン(図2)
 スッポンPelodiscus sinensisは,スッポン科Trionychidaeに属するカメである.
 ニホンスッポン,シナスッポン,チュウゴクスッポン,アジアスッポン,ヒガシアジアスッポン,キョクトウスッポンなどともいわれ,これらの名称のとおり,ロシアから中国,台湾,ベトナムにかけて分布している.なお,中国に生息するものを基亜種チュウゴクスッポンP. s. sinensisとし,日本に固有に生息するものを別の亜種ニホンスッポンP. s. japonicusとすることがある.
 スッポンの甲長は20〜35cmほどになる.ただし,中国に産するものは,最大でも甲長が25 cmほどであるという.スッポン類の甲は扁平で,鱗板を欠き,表面が皮膚で被われている.鼻孔の先端部分は著しく突出し,管状となっている.頸部は強い伸縮性を示す.さらに四肢が櫂(オール)状を呈するのも大きな特徴である.また,四肢のそれぞれに5本の指趾があり,いずれもそのうちの3本に爪を有している.
 ほぼ完全な水生で,河川の中流域や湖沼などに生息する.食性は肉食性で,魚類や甲殻類,貝類(特に二枚貝)などを捕食する.
 日本においては,スッポンは,本州と四国,九州,奄美諸島,沖縄諸島,先島諸島に広く分布している.ただし,奄美諸島に生息するものはニホンスッポンの移入,沖縄諸島と先島諸島に生息するものはチュウゴクスッポンの移入によるという.また,本州や四国,九州において養殖されているスッポンは,そのほとんどがニホンスッポンと考えられるが,チュウゴクスッポンが養殖され,それが逸出して在来のニホンスッポンと交雑している可能性もあろう.
 スッポンは,食用とされることが多いが,一方,ペットとしても広く流通しており,爬虫類を専門とするペットショップでは,ふつうに販売されている.これらのペットのスッポンが遺棄されたり,あるいは逸出し,定着していることも考えられる.
 スッポンの移入により,在来の種々の生物が捕食され,また,中国原産のスッポンの場合には,日本在来のスッポンとの交雑による遺伝子の攪乱が生ずることが予期される[5].
図2 スッポン
図2 スッポン

(7)グリーンアノール
 グリーンアノールAnolis carolinensisは,イグアナ科Iguanidaeに属するトカゲの一種である.
 アメリカ合衆国の東南部に分布する.樹上性で,森林などに生息するが,民家の庭などでも認められる.日周期活動は昼行性である.
 頭胴長は雌が50〜55mm,雄が60〜70mmほどである.尾は長く,頭胴長の2倍にも達する.このトカゲは,体色を黄緑色から暗褐色まで,周囲の環境に合わせて短時間内で変化させることができる.そのため,アメリカカメレオンといわれることもある.
 ペットとして広く飼育されるが,逸出することが多く,小笠原諸島や沖縄島では,移入生物として定着している.
 グリーンアノールが定着すると,在来種のトカゲ類と競合することが懸念される.小笠原諸島では,グリーンアノールの定着後,オガサワラトカゲの個体数が減少しているという[2].
 グリーンアノールは,外来生物法における特定外来生物に指定されている.

8 ペットとしての両生類に由来する移入生物
 両生類Amphibiaは,有尾目Urodelaと無尾目Anura,無足目Gymnophinaの3つの目(order)に分けられる.有尾目はサンショウウオ類とイモリ類から構成され,一方,無尾目とはカエル類,無足目とはアシナシイモリ類をいう.
 最近は,多種の有尾類と無尾類がペットとして飼育されるようになっている.特に餌となる生物が恒常的に市場に流通するようになったため,さまざまな種類の無尾類,すなわちカエル類がペットになっている.
 両生類の移入生物としては,ニホンヒキガエルBufo japonicusなどが教材用などの目的で国内を持ち運ばれ,本来の生息地ではない地域に定着した例があるほか,かつて食用に輸入されたウシガエルRana catesbeianaが日本国内に広く定着している問題などがある.
 現在のところ,ペットに由来する両生類が移入生物として問題になっている例はないが,ニホンヒキガエルを捕獲して飼育していることがあり,また,外来生物法の施行前はウシガエルがしばしばペットショップで販売されていた.そのため,こうした個体が野外に定着したこともあると思われる.

(1)ニホンヒキガエル
 日本には数種のヒキガエル科Bufonidaeのカエルが生息する.そのうち,もっとも一般的なのはニホンヒキガエルBufo japonicusであろう.ニホンヒキガエルには,基亜種であるニホンヒキガエルB. j. japonicusのほか,別亜種としてアズマヒキガエルB. j. formosusが知られている.両者の分布は本来,近畿地方を境界とし,ニホンヒキガエルはそれよりも西の本州と四国及び九州に,アズマヒキガエルは近畿地方以東の本州に生息する.
しかし,現在は,北海道の函館や旭川にアズマヒキガエルが生息し,この分布は人為的なものであると考えられている[4].また,本来はアズマヒキガエルの生息地である東京や金沢の市街地に別亜種のニホンヒキガエルが生息することも明らかになっている.
 こうした日本国内における移入は,実験用や教材用に本種が使用され,その一部が遺棄されたり,逸出したことによると考えられる.また,ペットとして長期にわたって飼育することは少ないであろうが,捕獲したり,短期の飼育を行い,その後に遺棄された例もあろう.
 本種の移入は,もともとこのカエルが生息していなかった地域においては,被捕食者となる生物に影響を及ぼすことが予期される.また,異なる亜種の生息地域に別亜種の移入が起こった場合には,亜種間の交雑が起こり,遺伝子の攪乱が生じることになる[6].
 このほか,ヒキガエル類では,沖縄県の宮古島のみに生息するミヤコヒキガエルB. gararizans miyakonisが教材として沖縄島に運ばれ,それが遺棄されて定着した例がある.これについては,現在,ほぼ駆除されたと考えられているが,教材用に不用意に生物を移動させたことに起因する事例として知られている[7].
  また,本来は北アメリカ大陸の南部から南アメリカ大陸の北部に生息するオオヒキガエルB. marinusはサトウキビの害虫駆除のために世界的に多くの地域に導入され,移入種として定着している.本種は,日本においては,小笠原諸島と大東諸島,石垣島に認められる.このカエルは,本来の目的であるサトウキビの害虫だけでなく,ほかにも多種多様な小動物を捕食することが知られており,移入が成立した島々に生息する固有の動物が被捕食者として圧迫されている[1].オオヒキガエルは,外来生物法において特定外来生物となっている.
(2)ウシガエル(図3)
 ウシガエルRana catesbeianaは,アカガエル科Ranidaeに属する.
 本来の生息地は北アメリカ大陸であるが,人間の食料とするために各地に導入され,アメリカ合衆国の国内においても移入が起こっているほか,世界の多くの国で移入種として定着している.ウシガエルは比較的大型のカエルであり,主にその大腿部を食用とすることが期待されていたものである.食用ガエルという別名は,このことに起因する.ただし,食用としての本種の需要は短期間のうちに低下し,現在では,これを食用とすることは少ない.
 日本では,ウシガエルは1918年にアメリカ合衆国から輸入されたのが初めてである.その後,第二次世界大戦中を除いておよそ半世紀にわたって各地に輸入され,放逐されている.
 また,近年はペットショップでもしばしば販売されていたため,それらが遺棄されたり,逸出したこともあったことは容易に推察される.
 ウシガエルは,繁殖能力が高く,日本全国でふつうに認められるカエルとなっている.また,被捕食者をめぐって在来のカエル類と競合し,それらを圧迫していることは明らかである[3].
 ウシガエルは現在,外来生物法における特定外来生物に指定されている.ただし,学術研究と教育に使用する場合には,行政機関への届け出が必要ではあるが,規制から除外される.
図3 ウシガエル
図3 ウシガエル
(以降,次号へつづく)


引 用 文 献
[1] 草野 保:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,105,地人書館(2002)
[2] 太田英利:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,99,地人書館(2002)
[3] 太田英利:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,106,地人書館(2002)
[4] 斎藤和範:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,232h234,地人書館(2002)
[5] 佐藤寛之:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,98,地人書館(2002)
[6] 戸田光彦:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,103,地人書館(2002)
[7] 当山昌直:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,104,地人書館(2002)
[8] 安川雄一郎:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,94,地人書館(2002)



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