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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(XVII)
― エキゾチックアニマルに由来する移入生物(4)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

6 ペットとしての鳥類に由来する移入生物
 日本において移入生物として定着している種はきわめて多い.それらが導入された経緯はさまざまであるが,近年は,家庭においてペットとして飼育されていたものが遺棄されたり,あるいは逸出して移入生物となる例が数多く認められている[2-8].
 前号と前々号[9, 10]では,おもにペットに由来する移入生物,あるいは移入生物としての定着が危惧される動物のうち,哺乳類について概説した.これに続いて今回は鳥類に属する移入生物について述べることにする.
 鳥類は,エキゾチックアニマルあるいはエキゾチックペットなどという言葉が使われるようになる以前から,家庭において愛玩用に飼育されてきたものである.江戸時代には,たとえば『喚小鳥(よぶことり)』(図1)など,野鳥を呼び寄せ,また,それらを飼育するための解説書が出版されている.しかし,江戸時代以前は,外国との交流がほとんどなかったため,一般に飼育されていた鳥類は在来種であり,加えて日本国内における飼育鳥の移動も限られていたと推察され,したがって鳥類が移入生物となることはほとんどなかったと考えられる.
 例外的に,長崎には海外から珍しい動物が運び込まれ,それには哺乳類に限らず,ダチョウ(図2)なども含まれていたが,ごく限られた数の個体が輸入されたにすぎない.また,江戸時代の末期には,外国からの鳥類を見世物にすることも多くなったようであるが,それらも逸出することは少なかったであろうし,たとえ逸出したとしても,野外において繁殖しうるだけの数の個体が存在したとは考えられない.
 しかし,明治時代以降,次第に海外から多くの鳥類が愛玩用に輸入されるようになり,特に昭和時代には,多種多様な鳥類が輸入され,愛玩用に飼育されることとなった.これにともない,逸出する個体が増し,いくつかの種は現在,移入生物として定着するにいたっている.
 なお,日本において愛玩用に飼育されていた鳥類が移入生物として定着する際の経路は,遺棄もあると思われるが,多くは逸出であろう.鳥類は,哺乳類以上に,飼育管理上のわずかの失宜によって容易に逸出するからである.
 現在,さまざまな種の鳥類が日本において移入生物として定着している.それらには愛玩鳥のいわゆる「篭抜け鳥」に由来するものも多いと思われる.以下,代表的な種について略述したい.
図1 『喚小鳥』(1710〔宝永7〕年刊)の挿絵
図1 『喚小鳥』(1710〔宝永7〕年刊)の挿絵

図2 長崎にオランダ人が持ち渡ったというダチョウを描いた長崎版画
図2 長崎にオランダ人が持ち渡ったというダチョウを描いた長崎版画

(1)ド バ ト
 ハト目Columbiformes,ハト科Columbidaeに属する代表的なハトの一種であるカワラバトColumba livia(図3)を原種として家禽化されたものが半野生化したものをドバトという.
 カワラバトは全身がほぼ灰色を呈し,頸部に淡緑色と紫色の光沢を示す部分がある.また,翼には2本の黒帯があり,尾の先端も黒色になっている.ドバトの体色は,カワラバトに類似のものから,茶褐色を呈するもの,黒色に近いものまでさまざまである.体長は30〜35cmほどである.
 ドバトは世界的に分布する.日本における分布がいつ頃から始まったかは明らかではないが,飼い鳥に由来する移入生物としては例外的に古くから存在していると考えられる.
 カワラバトは本来,岩壁などに営巣し,草地で植物の種子などを摂取している.移入生物となり,市街地に生息するドバトは,人工的な壁面などを営巣の場とし,おもに社寺の境内や公園,駅前の広場などで採餌を行うようになっている.
 多数のドバトが生息する環境では,それらの排泄物が問題となり,また,ドバトはヒトと動物の共通感染症を媒介することもある.
図3 カワラバト(Jones, T. R. : Cassell's Book of Birds, Vol. 3. Cassel, Petter, and Galpin〔無刊記〕より)
図3 カワラバト(Jones, T. R. : Cassell's Book of Birds, Vol. 3. Cassel, Petter, and Galpin〔無刊記〕より)

(2)ワカケホンセイインコ
 ワカケホンセイインコ Psittacula krameri manillensis は,インコ目Psittaciformes,インコ科Psittacidae,インコ亜科Psittacinaeに属する.ホンセイインコ Psittacula krameri の一亜種である.
 体長は40cmほどで,一般に中型インコと称される.全身が緑色を呈し,雄では,嘴の基部からのど,頬部にかけて黒色の線が半リング状に存在する.尾は長く,青色を帯びている.また,上嘴は赤色である.
 インドとスリランカの原産であるが,世界各地で飼い鳥とされ,また,野生化して移入生物となっている.日本では,1960年代の終わり頃から移入生物としての定着が認められるようになり,現在では多くの地域において集団で生活している様子が観察される.
 食性は植物食で,穀物や樹木の芽や花,果実などを摂取する.営巣は樹洞を利用して行っている.
 移入生物としてワカケホンセイインコが何らかの問題を生じているか否かは明らかではない.
図4 ワカケホンセイインコ(左)(Blakston, W. A. and Wiener, A. F. : The Illustrated Book of Canaries and Cage-Birds, British and Foreign. Cassel, Petter, Galpin & Co.〔無刊記〕より)
図4 ワカケホンセイインコ(左)(Blakston, W. A. and Wiener, A. F. : The Illustrated Book of Canaries and Cage-Birds, British and Foreign. Cassel, Petter, Galpin & Co.〔無刊記〕より)

(3)ソウシチョウ
 ソウシチョウ Leiothrix lutea は,スズメ目Passeriformes,チメドリ科Timaliidaeに属する.
 スズメほどの体サイズをした小型の鳥で,体色は全体的には暗緑色を呈する.ただし,眉斑から頬部にかけては淡黄色で,上胸部はそれよりも濃黄色,さらにその下方の胸部は橙色となっている.嘴は赤色である.
 中国南部からインドにかけての広い地域に分布している.
 中国では古くから飼い鳥とされており,日本でも江戸時代にはすでに飼育されていたという.中国から世界の多くの国々に愛玩鳥として輸出され,現在では,日本のほか,ハワイ諸島やヨーロッパの各地で移入生物として定着している.
 食性は基本的には草食性であるが,穀類や果実などのほか,昆虫なども捕食する.
 ソウシチョウが移入生物となることにより発生する問題は特にないと思われるが,あるいは営巣の方法が類似している在来種であるウグイスとの競合が懸念されるかもしれない[1].
図5 ソウシチョウ(右上)(Blakston, W. A. and Wiener, A. F. : The Illustrated Book of Canaries and Cage-Birds, British and Foreign. Cassel, Petter, Galpin & Co.〔無刊記〕より)
図5 ソウシチョウ(右上)(Blakston, W. A. and Wiener, A. F. : The Illustrated Book of Canaries and Cage-Birds, British and Foreign. Cassel, Petter, Galpin & Co.〔無刊記〕より)
(以降,次号へつづく)


引 用 文 献
[1] 江口和洋:外来種ハンドブック,日本生態学会編,村上興正,鷲谷いづみ監修,86,地人書館(2002)
[2] 深瀬 徹:獣畜新報,56,195-196(2003)
[3] 深瀬 徹:獣畜新報,56,340-342(2003)
[4] 深瀬 徹:獣畜新報,56,422-423(2003)
[5] 深瀬 徹:獣畜新報,56,471-472(2003)
[6] 深瀬 徹:獣畜新報,56,551-553(2003)
[7] 深瀬 徹:明治薬大研究紀要,34,1-20(2005)
[8] 深瀬 徹:日獣会誌,59,715-717(2006)
[9] 深瀬 徹:日獣会誌,59,787-790(2006)
[10] 深瀬 徹:日獣会誌,60,17-19(2007)



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