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馬耳東風

 ラジオで有名タレントが吠えていた.話題は長良川で行われる鵜飼いである.たまたま聞こえてきたので,正確な表現で再現は出来ないが,主旨は以下の通りである.長良川で行われる鵜飼いの鵜は川鵜ではなく,本来川には住んでいない海鵜である.それを捕まえて来て,川で鮎を捕まえる訓練をし,ショーとして長良川で見せる.その際鵜が捕まえた鮎は,飲み込む途中で船の上に引き上げて無理矢理吐き出させる.その鮎を人間様がいただくわけであるが,このショーは,鵜に対する拷問であり,虐待ではないかというのである.動物愛護団体はよく黙って居るものだと言っていた.相手が宮内庁だから黙っているのだろうかとも.その一方で,わが国の伝統芸術である三味線は,動物愛護団体の反対運動で,その原料である猫の皮が使いにくくなっている.これでは三味線本来の音色は消えて行くに違いない.合成ものが,本来の品とは違うことはすべての物品に通用する.わが国古来の伝統文化を大切にする氏の言動からすればもっともな話だ.動物愛護団体が三味線に猫の皮使用反対を主張しているにもかかわらず,沖縄の三線(蛇皮線)にクレームをつけた話は聞いたことがない,三線の原料となる蛇はワシントン条約対象の動物であるのになあとも言っていた.不勉強にして,三線の原料となる蛇がワシントン条約対象動物であるかどうか知らない.しかし,動物愛護団体というのは可愛い動物でなければ関心はないのか,可愛くない動物はどうでも良いという考えなのだろうかとまで言われると,これはちょっと気になる.動物愛護団体と言えば,我々に身近な団体ではないか.見た目が可愛い動物だけが対象の愛護団体では困る.人間同様姿形や種族による差別はいけない.
 昔の職場に実験動物研究室というのがあって,実験動物の開発に力を注いでいた.わが国の畜産動物の代表はなんといっても牛である.牛は反芻動物で,その生理はラットやマウスとはかなり異なる.つまり実験によっては牛の代わりにマウスを使うというわけには行かない.とはいえ,各種の実験に牛そのもを使うのは,相手が大きすぎ費用もかかる.そこで牛に変わる小型の反芻動物はないかと探していた.それがあったのである.インドネシア・マレーシア原産のマメジカという動物だ.手のひらに載るとはちと大げさだが,とにかくとても小さな鹿である.現地では以前食用に捕獲していたという.関係国政府の許可も得て輸入し,実験動物としての開発に挑んだ.それがある日新聞に写真付きで紹介された.とたんに抗議の電話が舞い込んだ.あんな可愛い動物を実験動物にとは何事かというわけだ.それでも実験動物としての開発に金と時間をかけて努力をした.しかし失敗に終わった.至って神経質な動物で繁殖が思うように行かなかったのである.結局最終的に上野動物園にお引き取り願った.ご覧になりたい方は上野動物園へお出かけ願いたい.
 実験動物は,小型で,繁殖が容易で,遺伝的に均一な資質が条件であるが,私はそれに,見た目があまり可愛くないことも付け加えた.

(子)