「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)の目的は“動物の虐待の防止,動物の適正な取り扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し,生命尊重,友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに,動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命,身体及び財産に対する侵害を防止すること.”となっている.
われわれは,「子供達が捨てられた子猫を拾って動物病院に届けてくる.」という経験や,捨て猫や野良犬,猫の子供の里親探しの相談,野良犬,野良猫問題の相談を受けることがある.また,捨て猫にエサをやり,近所のトラブルになっている事例や,子供達が親に内緒で子猫を飼っていたりする事例もある.
このように動物愛護管理法の目的に合って行動をしている人が困っていたり,事件がある度,“生命の大切さ”を子供達に訴える必要性があるといいながら捨て犬・猫が身近に存在することなど,何か違和感を覚える.
「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され,愛護動物の遺棄の罰金が30万円以下から50万円以下に引き上げられたが,罰金が引き上げられただけで,このような捨て犬,捨て猫が減るのだろうか.
動物愛護管理法の第3条では“国及び地方公共団体は,動物の愛護と適正な飼養に関し,相互に連携を図りつつ,教育活動,広報活動等を通じて普及啓発を図るように努めなければならない.”とされている.もちろん,動物の愛護と適正な飼養に関しての教育,広報は必要であるが,捨て犬,捨て猫という違法行為については,「愛護動物を遺棄することが犯罪である」という直接的な啓発活動がなければ理解されないのではないかと思う.
動物を飼育しようと思う人は,愛情を持って終生飼育する責任があり,それに加え,動物を取り扱う業をする者は専門家としての責任もあるのは当然のことと思う.しかし一方,私たちの身近な問題として動物の遺棄はこのような愛情や責任とは関係なく発生し,動物の好き嫌いに関係なく見つけた人は捨てられた犬猫の命の問題として係わり,そこに愛情や責任感が発生してくるのである.しかし,飼育することができる環境でない人には,里親を探すことができなければ,“殺処分”か“見捨てる”という残酷な選択しか残らない.このことは「動物愛護管理法」の目的にそぐわないのではないかと思う.そして,捨て犬,捨て猫などを見つけた人が困ったり,悲しむことがないようにしなければならないと思う.
通常は,捨て猫を警察に届けると「拾得物扱い」となり,保健所に届けると「飼い主不明猫」の扱いとなる.犬の場合も「迷い犬」の扱いになる.これでは「捨て犬」,「捨て猫」はいないことになってしまう.ただ,浜松市においては浜松中央警察署の生活安全課で,市民グループが作成している「遺棄及び被害動物報告書」を受け取り,「遺棄の疑い」として扱ってくれている.
改正された動物愛護管理法で愛護動物の遺棄の罰則を強化したことは,遺棄という行為を重要視していることと理解できる.しかし,動物の遺棄の実数,実態が把握されなくては問題が明白にならないのではないかと考える.
昨年6月,私は県獣医師会の総会で,「捨て猫を動物愛護管理法での遺棄として扱うよう警察に申し入れて欲しい」と発言したが,県獣医師会の回答は,「警察で扱う猫は,飼い猫,迷い猫,野良猫,野良猫の子猫,捨て猫等があり,判断ができないので遺棄として扱うよう申し入れることができない.」とのことであった.しかし,現状をしっかり調査,確認すれば遺棄かどうかの判断ができると思うし,行政,警察,獣医師は,この問題を放置するのではなく,判断する責務があると考える.また,その他,[1]
「動物の愛護及び管理に関する法律」に対して獣医師会としての考え方,[2] 獣医師会として動物愛護法に関する活動状況,[3] 動物愛護啓発ポスターの作成,[4] 殺処分されている動物を無くすための対策,[5]
殺処分方法についての考え方について質問し,今後の対応推進をお願いした.
私は,獣医師及び獣医師会が動物の愛護や命の大切さ(殺処分についても),人と動物との問題,動物に関わる地域の問題に前向きに関わり,対応することも責務と思っている.公園に捨てられた子猫は,餓死はもちろん,カラスやたぬきに食べられることも多く,市民にも目撃されている.私は,動物の命に関わり,動物との共生を目指す獣医師は,このような被害に遭う動物や,捨てられた動物に遭ったばかりに苦しむ人など,弱者の目線での代弁者とならなければいけないのではないかと思う.
動物の遺棄とは異なるが,動物愛護管理法の施行にあたり“幼齢の犬及び猫の販売の日齢制限の在り方”が検討されたが,これこそ,獣医師会が率先して,ペットを購入する人たちに犬や猫の若齢販売の問題点を訴え,適正な年齢での購入を理解するよう努めなければならないと思う.
動物愛護管理法の第2条の基本原則に“動物が命あるものであることにかんがみ,何人も,動物をみだりに殺し,傷つけ,又は苦しめることのないようにするのみでなく,人と動物の共生に配慮しつつ,その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない.”と記載されている.ただ,可愛いからという理由,営業上の理由から,私たちと同じ命あるものを,人にすれば3歳ぐらいの幼児を親や兄弟から離すことが,習性上いかに問題があることかを社会に訴えられるのは,獣医師ではないかと思う.
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