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紹 介

都市型小動物診療施設猶 ─ Pet Clinicアニホス

宇野雄博 (宇野動物病院院長・愛媛県獣医師会会員)

先生写真 山村穂積先生の新しい病院が平成17年4月11日に竣工したと伺い,以前から何十人ものスタッフが働く都会の大型動物病院とは実際どのようなものなのか興味のあった私は,新病院への引っ越しからわずか1週間目,まだ新しい環境で何かと忙しい時期であろうと思いながらも,ちょうど四国から上京する機会があり早速に見学させていただいた.クライアントへの配慮やスタッフの作業効率はもちろん,自然環境まで考えた病院作りがなされており,私にとって得るものの多い見学であった.私の拙い文章では病院の様子を表現し尽す自信が無いが,多くの先生方の今後の病院作りの参考になればと思いご紹介させていただいた.

ア ク セ ス
 JR池袋駅から川越街道をタクシーで走ること十数分,前方に午後の陽射しの中で誇らしげにそびえる黄色と緑の真新しい病院の建物が飛び込んで来た(図1).
図1 施設外観
 図1 施設外観

1 階 部 分
 病院は交通量の多い片側2車線の川越街道に面しており,1階には車11台分の駐車場がある.そこでは2名の専任のスタッフが来院の車の誘導やさまざまな案内をしており,そのせいか満員の駐車場は整然として,交通量の多い周辺道路からの出入りにも混乱はみられなかった.地価の高い都会の病院での駐車スペースの活用と顧客への配慮が感じられた.駐車場には水を吸収するアスファルトが敷かれ,地中からの気化熱で涼しく,また,駐車場の脇には犬の排尿場が設けられており,尿は排尿場の土によって分解吸収されるという自然のしくみを上手く取り入れて臭いが出ないようになっていた.さらに駐車場の奥には亡くなった動物と飼い主のためにお別れ室があり,ここは紫を基調とした色使いの部屋で大切な動物を亡くした飼い主の悲しみに対する配慮が感じられた.また,その反対側に伝染病の診察室と入院室が整っていた.これによって伝染病やその疑いの強い動物による院内の汚染や,他の来院動物との接触を避けられるようになっていた.
 エントランスは車が止めやすい車寄せや雨よけの屋根をつくり,さらに風避け室がある.エントランスルームの壁面は森の四季の中で楽しそうにしている動物たちをイメージしたオリジナルの壁紙で飾られていた.この絵は森羅万象,そして生まれてから死ぬまでをケアしている動物病院の存在を表現しているそうである.
 建物の内部は子供たちや高齢者や障害のある人たちが健常者と同様に利用しやすいようにバリアフリー化されていた.障害者駐車場から受け付けまでの床は目地の凹凸が無いように,階段のすべり止めはつまづき難い構造で,識別が容易なように目立つ色が使われていた.手すりの始点と終点も解りやすく,駐車場から受け付けとエレベーターへは点字ブロックが敷設され,点字ブロックの終点には点字の案内板が設置されていた.また,エレベーターの操作ボタンも凹凸のある文字で作られていた.建物内部の通路は車椅子と歩行者がすれ違うことができる十分な幅があり,エレベーター乗降ロビーは車椅子が回転できるスペースがある.さらにエレベーター内では車椅子が前進で乗り込んだまま周囲が見えるように鏡が設けられていた.

2 階 部 分
 2階の待合いロビーはとても広くゆったりしたスペースで,大きな窓からは障子越しに柔らかな陽射しが射している.待合いの床は滑り難く,転倒しても衝撃の少ない材料で,四角い柱の角は怪我の無いように丸い木材で覆ってあった.待合いロビーの一角の化粧室は介助の人や犬や乳幼児も一緒に入ることができるゆとりのある広さで,ドアはスムーズに開閉できる特別な作りとなっていた.
 広い待合いロビーの床は緑と茶色で構成され,これは自然界にある色である.そして色とりどりのソファーがあり,この色は人それぞれをあらわしていると山村先生は話しておられた(図2).これらソファーの明るいカラフルな色調はエントランスの壁の絵と相まって病院にありがちな硬質なイメージを和らげていた.待合いロビーを両側から挟むように,片側に受け付けが,反対側に診察室があった.受け付けはホテルのフロントのような長さ8メートルの受け付けカウンターがあり,受け付けと会計のそれぞれの専門スタッフが手際よく顧客に対応していた. 受け付けカウンターはヒノキ造りで,Pet Clinikアニホスの理念の象徴である森の雰囲気が伝わってきた.
受け付けカウンターの反対側には7つの診察室が並び,診察台は12台,診察室入り口には解りやすいように50〜60cm四方の大きな文字で診察室の番号が表示されていた.各診察室の間仕切りにはガラスがはめられ,他の診察室の様子が解るようになっていた.
 横一列に平行に並んだ診察室と処置スペースの間に間仕切りは無く,開放的で動きやすく,大勢のスタッフの動きが感じられ,さながらテレビ番組の「ER」のようであった.受け付けの一隅には,スタッフ用に院内16箇所の様子が映し出されるモニターがあり,外来診療などが円滑に進むように獣医師が担当獣医師やその他のスタッフに指示を出していた.大勢のスタッフが働く大型の動物病院ならではの工夫であった.また,受け付けから診察及び処置スペースへの動線上に医局や薬局,外来用X線室,暗室,夜間診察室そして1階から4階までの荷物用エレベーターがあった.
 顧客をはじめさまざまな人が常時出入りする環境であるだけに,セキュリティの面でも注意が払われていた.顧客はエントランスからエレベーターホール,待合いロビー,そして3階の面会室とトリミングルーム以外には行けない仕組みで,エレベーターも鍵がないと4階以上には行かない設定となっていた.診察時間終了後は,診察室のドアを内側から施錠し,受け付けカウンターはパイプグリル様のシャッターで閉じることで,外部の者がスタッフエリアに入ることができない様になっていた.
図2 2階待合ロビー
 図2 2階待合ロビー

3 階 部 分
 3階は主に入院や手術に関連したエリアとなっていた.手術室には3台の手術台が並び,入口は自動ドアで内部は陽圧のクリーンルームとなっていた.手術室の手前にある準備室は手術室以上の広いスペースが当てられていた.手術室の隣はX線CTのためのX線室,歯科治療室と続き,これらのエリアと接して入院室と処置室があった.
 入院室は常時80頭以上収容可能で,通常のステンレス製犬舎の他に大型犬用の入院室も作られていた.入院室に続く処置室は同時に5〜6頭の入院治療が可能で,特別注文の処置台を備え付けることで作業効率が高められていた.
 3階の屋外は屋外作業室として高い位置にガラス張りの屋根が掛けられ,明るく作業し易く感じられた.ここには広さ約3畳のパドックが3つと6畳ほどのパドックが一つあった.また,業務用の洗濯機4台と大型乾燥機,高圧滅菌器2台が並んでおり,VTスタッフが入院室と屋外作業場を忙しく行き来していた.風通しがよいため臭いがこもらず,常時水を使う場所であるが乾燥し易く湿気も少なかった.
 3階の上記のエリアと分離した場所に隔離室もあり,ここまではスタッフ専用のエリアであるが,すでに紹介したように,この階には2階から階段とエレベーターで昇ってきたところにガラス張りの開放的で明るいトリミングルームと,入院動物のお見舞い室があった.

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