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診療室

動  物  愛  霊  の  碑

末永 朗 (宮城県獣医師会理事・末永動物病院院長)

動物愛霊の碑
動物愛霊の碑
  「動物愛護精神の普及・啓発」に対する取り組みは,獣医師の社会的使命である.また,社会貢献として,全国各地でそれぞれ特色ある催しや活動がなされているが,各獣医師の動物愛護に対する考え方によっても,切り口を異にして,様々な方法,手法で事業が展開されている.全国津々浦々で事業展開の内容はそれぞれ異なるものの,目指す目的は「動物愛護」,「真の人間愛」,「豊かな社会と暮らし」で一致するものと思う.
 今回,貴重な誌面を与えていただいたので,我が田舎町の取り組みの一端を紹介させていただく.
 表題の「動物愛霊の碑」であるが,「愛霊」とは造語であり,「動物愛霊の碑」はブロンズ製(高さ1.3m,幅1.2m,奥行1m)で私がデザインを担当した,いわゆる慰霊碑である.
 私が暮らしているところは,仙台市から北へ約40km,宮城県大崎地域.この地域の狂犬病予防注射を担当する獣医師の仲間17名が,慰霊碑を作ろうと発起し,同時に火葬,納骨施設を含めた動物公園の整備事業を念頭に,約1年間の構想,準備を経て,力を合わせて完成させたのが平成13年の春のことであった.以来,このブロンズ像の前で,年に一度,私たち主催で,桜の季節に動物慰霊祭を開催し続けている.年々増加する参加住民の人数と参加者の熱心さには心打たれるものがある.
 ブロンズの愛霊の碑は,蝶の羽を持つ公園の妖精と犬,猫,兎,鳥で構成され,なびく妖精の髪と動物たちの体毛が,自然の風,生命の息吹を感じさせ,動物たちの視線は妖精に向けられ,愛される喜びと信頼を感じさせる.妖精は左手を動物たちへ,右手を口元に添えて微笑みをたたえ叫んでいる.動物たちと人々に叫んでいる.そのメッセージは観る人それぞれが感じるままに,「みんなここにおいで」「ありがとう」「元気出して」「頑張って」「幸せに」だったりするのかもしれない.5年の歳月と風雨にさらされて,ブロンズはいい色合いになり,多くの方が撫でてくれる動物たちの頭はテカテカになってきている.当初はイタズラも心配されたが,鳥の糞害は多少あるものの,それは全く無用のことであったことも嬉しいことであり,冬には妖精がマフラーを掛けてもらったり,動物たちがお揃いの帽子をかぶっていたり,夏にはカラフルな器に水が添えられていたり,お花が添えられていたり.その存在はまだまだ多くの方に知られているとは言えないが,愛してくださる住民の方々の中で,着実に,安らぎと慈しみの場所として,根付きはじめているように思う.
 動物たちへの慈しみ,感謝,祈り,そして人間愛の尊さという4つのキーワードを旨にデザインされ,常にその思いを発信し続けるこの愛霊の碑は,私たち地域獣医師の誇りであり,地域社会との絆になっていってくれるものと信じている.
 大切な何かが失われつつある現代社会の中で,獣医師としてできるこんなささやかな取り組みも,各地域で発信し,積み重ねることは,安心と信頼の日常診療の提供と同様に,社会の中での獣医師の大切な使命と改めて感じている.

末永 朗  
―略 歴―

1976年 東京農工大学卒業
  宮城県仙台市にて研修
1979年 宮城県古川市(現 大崎市)にて末永動物病院を開業,現在に至る


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† 連絡責任者: 末永 朗(末永動物病院)
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