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エキゾチックアニマルの生物学(X)
― ハムスター類の特徴と飼育に際しての留意点(2)―
ハムスター類には25種ほどが知られているが,ペットとしてふつうに飼育されているのは,ゴールデンハムスターのほか,ドワーフハムスターと称されるヒメキヌゲネズミ (ジャンガリアンハムスター),キャンベルキヌゲネズミ
(キャンベルハムスター),ロボロフスキーキヌゲネズミ (ロボロフスキーハムスター)の3種,そしてモンゴルキヌゲネズミ (チャイニーズハムスター)であろう[5]. これらのハムスター類は,同様の方法により飼育を行うことが可能である.今回は,ハムスター類の飼育を中心として述べることにする. |
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3 雌 雄 鑑 別 齧歯類の雌雄鑑別は一般に,外尿道口あるいは生殖器の開口部と肛門の間の距離にもとづいて行う.すなわち,雌では,外尿道口と膣口がほぼ同位置に開口し,それと肛門との距離が短い.一方,これに対して,雄では,外尿道口と肛門の間の距離が長いのが特徴である. さらに,成熟した後は,雄は大きく発達した陰嚢を有するため,鑑別が容易になる.特にモンゴルキヌゲネズミの雄の陰嚢は,体サイズに比べて著しく大きくなっている[3]. また,成熟した雄のゴールデンハムスターは,側腹部に皮脂腺の発達が著しく,被毛をかき分けるとそれが黒褐色に認められるが,雌における皮脂腺の発達は不良である[4]. |
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4 飼 育 (1)飼育容器 ハムスター類は,鳥かごや鳥かごタイプのハムスター用ケージ(図1)で飼育するか,あるいはプラスチックケース等を用いて飼育するのが一般的である. 鳥かごで飼育する場合は,あまり高さがないものを使用する.ハムスター類は,リス類などと異なり,跳躍することはなく,地上を歩行して生活を行っているため,高さのある飼育容器は必要なく,むしろ底面積の広さを確保すべきである.ただし,跳躍してケージの上面に飛び上がることはないが,側面を伝わって上面まで行き,ぶら下がることがある.こうした場合に,ハムスター類はケージの側面や上面から落下することが多々あり,その際に骨折などの外傷を負いやすい.したがって,金網状のケージを用いる際には,鳥かごよりもハムスター飼育用に作製された背の低いケージを用いることが望まれる.なお,こうした金網状のケージには出入用の扉が設けられているが,ハムスターの個体によってはこうした扉を前肢で開けることができる.そこで,ハムスターの逸脱防止のため,ケージの出入口には留め具を付けておくことが必須である. 一方,プラスチックケースなどを用いてハムスター類の飼育を行うことも多く,特に最近は,このタイプの飼育容器が多用される傾向にある.プラスチックケースで飼育を行うと,ケージの周囲にゴミが散乱しにくいという利点がある.また,冬期には,保温の点でも優れているといえる.しかし,その反面,ケージ内の湿度が過度に上昇しがちである.そのため,こうした容器についてはケージの上面は金網とし,特に夏期には蒸れていないか頻繁に観察しなければならない. (2)床 敷 鳥かごタイプの金網状のケージやプラスチックケースなどのいずれを使用する場合にも,飼育容器の底面には床敷を敷くことが望ましい. 床敷としては,ウッドチップと称される木材の削り片(図2)や紙製のものなどが実験動物用に販売されているので,それらを用いるのが簡便である.床敷用の木材の削り片は,ペットショップ等でも市販されているが,品質の点で実験動物用のものを使用するほうがよいだろう. あるいはペット用に切り草(図3)が販売されているので,それを用いるのも一法である. また,新聞紙を細切して床敷とすることもある.シュレッダーを用いて細切すると容易に床敷を作製することができる.ただし,新聞紙を使用すると,印刷のインクによってハムスターの体表が汚れることがあり,さらに,こうした素材をハムスターが噛んだときにインクが摂取される懸念がある. 以上の各種の床敷の交換は,その材質等によって異なるが,1週間に1〜2回程度とする.その際,使用している床敷の全部を交換しなくとも,1/2程度を交換するだけでもよい. このほか,一般的ではないが,飼育容器内に土壌を入れることがある.金網状ケージでは土壌を床敷とはしにくいが,プラスチックケースの場合には,ハムスターがトンネルを掘れるだけの量の土壌を収容することも可能である.ハムスター類の飼育法としては,土壌を使用するのがもっとも優れた方法であろうと思われる.しかし一方では,その交換頻度が低くなりがちであり,また,寄生虫が寄生している場合には再感染が起こりやすくなるため,必ずしも推奨できることではない. (3)飼育容器内への設置品 ハムスター類は,ある程度決まった場所で排尿や排便を行う傾向がある.この性質を利用して,ケージ内に浅い小容器を置き,それをトイレとして使用させるとよい.初めは,そのハムスターの尿や糞便を採取し,それを小容器に入れておくとトイレとして使用するようになることが多い.しかし,こうした容器をトイレとして使用するか否かは,個体によっても異なるようで,必ずしも成功するとは限らない.トイレを利用できる場合には,その清掃を行えば,床敷の交換頻度を減ずることができる. また,ペットショップ等ではハムスター類の玩具としていくつかの物品が販売されている.これらの玩具のうち,もっとも一般的なのは,回し車(図4)であろう.回し車は,ペットとして飼育されている齧歯類の玩具として古くから使用されているものである.ハムスター類も,個体差はあるが,回し車を回すことが多い. ハムスター類の飼育書には,回し車は動物の運動不足の解消に有用であるなどの記載がみられる.しかし,実際には,車の間に四肢をはさんで骨折することがある.また,長毛種のハムスターでは,被毛が絡まり,これがもとになって外傷を負う場合もある.そのため,回し車の設置には十分な注意が必要である. このほか,ハムスター飼育用ケージとして販売されているものには,階段などが付属していることが多い.しかし,このような構造は,回し車と同様に外傷の原因となりがちである.玩具等の設置に際しては,その選択に配慮しなければならない. (4)飼 料 飼料は,基本的には野菜や乾草などを中心とする.このほか,ハト用の配合飼料やヒマワリの種子,マウス・ラット用の配合飼料などを適宜に給与し,さらにときおり,少量のゆで卵やチーズ,煮干,固形タイプのドッグフードを与えるとよいだろう.いずれにしても,ハムスター類を長生きさせるためには,高カロリーの飼料を常に給与することは避けるようにする. (5)飲 水 ハムスター類の飲水量は比較的少ないが,飼育容器内には常に飲水を用意しておくべきである. ただし,水を浅い容器に入れて飼育容器内に置くと,ハムスターがそれをこぼすことが多く,容器内の湿度が過度に上昇する原因となる.飲水は,吸い口のついたボトル状の給水びん(図5)を使用して与えるのがよい. |
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(6)温度及び湿度 ハムスター類の飼育にあたっては,夏期の高温多湿をなるべく避けるように心がける.夏期には,必要に応じてエアコンによる温度管理や除湿を実施する. 一方,冬期に気温が低下すると,ハムスター類は冬眠状態になることがある.5℃以下に気温が低下する場合には,ある程度の保温が必要である. (7)光 周 期 ハムスター類は一般に,夕方と早朝に活発に活動する.ただし,夜間にも比較的よく活動し,また,条件によっては,昼間も採食等を行う.ハムスター類の日周期性は,飼育条件等によって変化しがちである. しかし,そうであったとしても,ハムスター類の飼育に際しては,その概日リズム(サーカディアンリズム)を乱さないような光の管理が必要である.理想的には自然の光周期を反映させることが望ましいが,少なくとも夜間に照明を点灯させるのは,できるかぎり控えるべきであろう.夜行性あるいは夜行性に近い日周期活動を示す動物が夜間に活発に活動するのは,夜が暗いからである. (8)被毛の手入れ ハムスター類を飼育する場合,被毛の保護のため,ときにブラッシングを行う.この際のブラシとしては,歯ブラシを用いるとよい.特に長毛種に対しては,ブラッシングが必要である. (9)他個体との同居飼育 ハムスター類を他種の動物と同一ケージ内で飼育することはできない.また,たとえ同一ケージでなくとも,フェレットなどの食肉目動物と同一の室内で飼育すると,特にフェレットが室内にはなされている場合などには,ハムスターがストレス状態に陥ることがある. また,ゴールデンハムスターは,同種であっても,一つの容器に複数の個体を収容すると,成体の場合には闘争をすることが多い.特に雌と雄を同居させると,雌のほうが強く,雄が大きな外傷を負うことがしばしばある.ゴールデンハムスターは,基本的には一つのケージに1個体だけを収容して飼育すべきである.繁殖を試みる場合にのみ,交尾させるときに限って雌雄を同居させるようにする. 一方,ドワーフハムスター類は,一つの容器に複数の個体を収容しても,その容器が飼育個体数に応じた大きさであれば,問題なく飼育できるといわれることが多い.しかし,実際には,特にヒメキヌゲネズミ(ジャンガリアンハムスター)やキャンベルキヌゲネズミ(キャンベルキヌゲネズミ)では,飼育容器がある程度の大きさであったとしても,闘争することがある.ドワーフハムスターの場合も,繁殖を行わせないのであれば,一つの容器に1個体を収容して飼育するほうが無難である. (10)寿 命 飼育下におけるハムスター類の寿命は,通常,2〜3年である.ただし,これよりもさらに長い年月にわたって生存することもまれではない. ハムスター類の寿命には摂取する飼料のカロリーが関係し,低カロリーの飼料を継続的に給与した場合には,寿命が長くなる傾向が認められる. |
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5 繁 殖 ハムスター類の繁殖は容易であり,雌雄の個体を同居させると,簡単に交尾が行われる.ただし,雄に対する雌の攻撃を避けるため,交尾後には雌雄を分け,別々の容器で飼育するほうがよい. 通常,1年に数回の繁殖を行わせることができる.ただし,光周期などを自然界と同一条件にすると,秋と冬には繁殖が行われにくくなる傾向がある. ゴールデンハムスターの性周期は4日間,妊娠期間は通常は16日間,長くても19日までである.1回の出産の産子数は1個体から十数個体に及ぶが,6〜7個体ほどであることが多い[2]. ヒメキヌゲネズミの妊娠期間は18〜19日,1回の出産の産子数は1〜9個体,平均して5個体ほどである[1]. また,モンゴルキヌゲネズミの妊娠期間はおよそ20日,1回の出産の産子数は4〜9個体である[3]. |
引 用 文 献 | ||||||||||
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