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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(IX)
― ハムスター類の特徴と飼育に際しての留意点(1)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

1 系統分類学
 齧歯目Rodentiaは,リス亜目Sciuromorphaとネズミ亜目Myomorpha,テンジクネズミ亜目Cavimorphaの3つの亜目(suborder)に大別される.
 ネズミ亜目はもっとも多くの種を含むグループであり,ネズミ科Muridaeやヤマネ科Gliridaeなどの科(family)から構成されている.
 さらにネズミ科は,ハタネズミ亜科Microtinaeやネズミ亜科Murinae,アレチネズミ亜科Gerbillinaeなどの多くの亜科(subfamily)に分けられ,そのうちのキヌゲネズミ亜科Cricetinaeの動物を総称してハムスター類という.
 ハムスター類には25種ほどが知られている.このうち,ペットとしてふつうに飼育されているのは,ゴールデンハムスターMesocricetus auratus とヒメキヌゲネズミ(ジャンガリアンハムスター)Phodopus sungorus,キャンベルキヌゲネズミ(キャンベルハムスター)P. campbelli,ロボロフスキーキヌゲネズミ(ロボロフスキーハムスター)P. roborovskiiの4種である.また,このほかにも,モンゴルキヌゲネズミ(チャイニーズハムスター)Cricetulus griseus などが飼育されることもあるが,一般的ではない.
 上記のハムスターのうち,ヒメキヌゲネズミ属Phodopusの3種をドワーフハムスターという.ドワーフ(dwarf)とは“小型の”という意味である.なお,キャンベルキヌゲネズミについては,その種としての独立性に疑問があり,ヒメキヌゲネズミと同一種とする説もある[4].実際,ヒメキヌゲネズミとキャンベルキヌゲネズミは容易に交雑することが可能である.ただし,現在,ペットショップ等ではヒメキヌゲネズミとキャンベルキヌゲネズミを別種として販売している.また,キャンベルハムスターを独立種とする場合も,英名ではそれをdjungarian hamster(ジャンガリアンマムスター)とすることがあり,分類と名称にさらに混乱が生じている.

2 主要な種の特徴
(1)ゴールデンハムスター
 ゴールデンハムスターは,シリアンハムスターともいわれる.特に実験動物学領域でシリアンハムスターということが多いが,これが標準的な和名というわけではなく,一般にはゴールデンハムスターと称されることが多い.
 本種は,本来はシリア北西部に生息する動物であるが,現在は,世界各国においてペットあるいは実験用動物として広く飼育と繁殖が行われている.
 成体は,頭胴長17〜18cm,体重100〜130gとなる.雌のほうが雄よりもやや大きい.尾は短く,約1cmである.また,四肢も短い.
 被毛の色は,背側が赤色を帯びた茶褐色,腹側が白色ないし黄白色である.ただし,ペットとして飼育されているゴールデンハムスターの被毛色にはさまざまな変異が認められ,茶褐色のほか,茶色と白色の斑模様のもの(図1)やベージュ,黒色,白色,黒色と白色の斑模様のものなど,多くのタイプがみられる.なお,全身の被毛が白色を呈する個体やベージュ色を呈する個体には,野生色の個体と同様に眼が黒色を呈するもののほか,赤色にみえるものもある.最近は,野生色のゴールデンハムスターがペットとして飼育されていることはまれのようである.
 また,ゴールデンハムスターの被毛は本来は短毛であるが,長毛種も作出されており,長毛種にもさまざまな被毛色(図2)が存在する[2].
(2)ドワーフハムスター類
 ヒメキヌゲネズミ属のハムスター類は,シベリア,モンゴル,中国北部の乾燥地帯に生息している.
 これらは,成体になっても頭胴長5〜10cm,体重30〜50gと,ゴールデンハムスターに比べてきわめて小型である.なお,ヒメキヌゲネズミとキャンベルキヌゲネズミの体サイズに差は認められないが,ロボロフスキーキヌゲネズミ(図3)は他の2種よりもさらに小さい.
 被毛色は,背側が灰黄色または黄褐色,腹側が白色である.ヒメキヌゲネズミとキャンベルキヌゲネズミの背正中には1本の条が認められる.
 また,ペット用のヒメキヌゲネズミには,被毛の変異として帯青色や帯白色が認められ,帯青色のものはサファイアブルー,帯白色のものはスノーホワイト(図4)といわれている.一方,キャンベルキヌゲネズミには,野生色(図5)のほか,白斑を有するものや帯黄色のもの,帯赤色のもの,白色のものなどがある.白斑をもつものはパイド,帯黄色のものはイエロー,帯赤色のものはレッドなどと称される.さらに白色被毛や黄色系の被毛の個体には,ゴールデンハムスターの場合と同様に,眼が黒色のものと赤色のものがある.なお,これらの各種の毛色の名称は,主にペットショップにおけるものであり,店舗によってさまざまな名称が用いられてもいるため,必ずしも統一的な毛色名とはなっていない[1].
(3)モンゴルキヌゲネズミ(チャイニーズハムスター)
 中国北東部に生息する.
 成体は,頭胴長9〜12cm,体重30〜40gほどで,雄のほうが雌よりもやや大型となる.尾は,ハムスター類としては体サイズに比して長く,およそ1cmである.また,雄では,陰嚢が非常に大きいのが外貌上,特筆すべき点である.
 被毛色は,野生色の個体は,背側が茶灰色,腹側と四肢が白色を呈する(図6).また,このほか,ペット用には,被毛が白色の個体なども認められる.
 モンゴルキヌゲネズミは,染色体数が2n=22と,齧歯類のなかでも非常に少ないのが特徴である[3].
図1 ゴールデンハムスター(茶色と白色の斑模様,パイド)
図1 ゴールデンハムスター
(茶色と白色の斑模様,パイド)
図2 ゴールデンハムスター(長毛種,シルバーグレー)
図2 ゴールデンハムスター
(長毛種,シルバーグレー)
図3 ロボロフスキーキヌゲネズミ(ロボロフスキーハムスター)(野生色)
図3 ロボロフスキーキヌゲネズミ
(ロボロフスキーハムスター)(野生色)
図4 ヒメキヌゲネズミ(ジャンガリアンハムスター)(スノーホワイト)
図4 ヒメキヌゲネズミ
(ジャンガリアンハムスター)(スノーホワイト) 
図5 キャンベルキヌゲネズミ(キャンベルハムスター)(野生色)
図5 キャンベルキヌゲネズミ
(キャンベルハムスター)(野生色)
図6 モンゴルキヌゲネズミ(チャイニーズハムスター)(野生色)
図6 モンゴルキヌゲネズミ
(チャイニーズハムスター)(野生色)

引 用 文 献
[1] 深瀬 徹:獣畜新報,49,376-378(1996)
[2] 深瀬 徹:獣畜新報,50,214-216(1997)
[3] 深瀬 徹:獣畜新報,51,774(1998)
[4] Norwak RM : Walkerユs Mammals of the World, 5th ed, Vol.2, 643-870, John Hopkins University Press, Baltimore and London (1991)

(以降,次号につづく)


† 連絡責任者: 深瀬 徹
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