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解説・報告

食品に残留する農薬・動物用医薬品等の
ポジティブリスト制度の施行

宮川昭二(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課課長補佐)

 平成15年の食品衛生法一部改正により,食品に残留する農薬,動物用医薬品,飼料添加物(以下,「農薬等」と略す)について,ポジティブリスト制度(農薬等の食品への残留を原則禁止する制度)を,平成18年5月末に施行する.本制度の概要について解説する.

 

 

1 制度導入の背景
 現行の食品衛生法においても農薬等に対する残留基準が定められ,基準を超える農薬等が残留する食品の販売や輸入は規制されている.
 食品に残留する農薬や動物用医薬品の現状をみると,残留農薬では,わが国に輸入される冷凍野菜の基準違反事例や国内で農産物生産において農薬取締法に基づく登録を受けていない農薬が使用され残留する事例などが報告されている.また,動物用医薬品では,輸入される活ウナギなどで抗生物質や抗菌性物質が検出され,食品衛生法に定める基準に違反する事例として処分されている.
 しかしながら,食品衛生法に基づく残留基準が設定されていない農薬などが食品から検出された事例は,現行の規定では,販売や輸入などを規制することはできない.
 従来から農薬や動物用医薬品の使用などは農薬取締法や薬事法などにより管理されてきたところであるが,上記のような食品への農薬・動物用医薬品等の残留事例のほか,輸入食品の急増,食品の安全性確保への国民の強い要請などを背景に,残留基準が設定されていない農薬等が食品から検出される場合などに,当該食品の流通について適正な措置を行うことが出来よう規定を設けることが強く求められてきた.
2 ポジティブリスト制度の概要
 平成15年5月に公布された「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成15年法律第55号)に定める食品に残留する農薬等のポジティブリスト制度では,農薬,動物用医薬品及び飼料添加物について,厚生労働大臣が定める「人の健康を損なうおそれのない量」(以下,「一律基準」と略す)を超えて食品に残留する場合,その食品の販売,輸入,食品製造・加工への使用などを禁止する.(別添:食品衛生法第11条第3項(平成18年5月29日施行))
 一律基準を超える農薬,動物用医薬品などが残留する食品であっても,[1]残留する農薬等が厚生労働大臣の定める「人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるもの」(以下,「対象外物質」と略す.)に該当する場合,[2]食品衛生法第11条第1項に基づく残留基準が定められ,残留量が基準を超えない場合は,販売等の禁止から除かれる.
 ポジティブリスト制度施行のため,平成17年11月に厚生労働省告示により,「一律基準」,「対象外物質」及び「残留基準等」を定めた.
(1)一律基準告示(食品衛生法第11条第3項の規定により人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量を定める件(平成17年厚生労働省告示第497号))
 一律基準を0.01ppmと定めた.国内外において使用される農薬・動物用医薬品等は,その使用に先立ち,毒性などについて一般的に評価が行われており,その評価結果を踏まえ,使用対象作物や使用量などが制限されていたり,使用される作物等に対してその使用方法や当該農薬等の食品に残留する量の限度(残留基準)が設定されており,一律基準は,残留基準が定められていない農薬・動物用医薬品等に対して適用される.
 一律基準は,FAO/WHO食品添加物専門家会議(JECFA)による香料の評価や米国医薬食品庁(FDA)において容器からの溶出物等の間接添加物の評価に際して用いられる「許容される暴露量」,国内またはFAO/
WHO残留農薬専門家会議(JMPR)若しくはJECFAでこれまでに評価された農薬及び動物用医薬品の「許容一日摂取量(ADI)」等を考慮し,一律基準が適用されるような場合の個々の農薬等の摂取の許容量の目安として1.5μg/dayを用いることが妥当であると考えられる.わが国の国民の食品摂取量を踏まえ,一律基準によって規制される農薬等の摂取量が当該目安を超えることがないよう,一律基準として0.01ppmと定めることとした.
(2)対象外物質告示(食品衛生法第11条第3項の規定により人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質を定める件(平成17年厚生労働省告示第498号))
 対象外物質として,65物質を定めた.対象外物質は,一般に使用されている農薬,動物用医薬品等及びその成分である物質が化学的に変化して生成した物質のうち,その残留の状態や程度などからみて,農畜水産物にある程度残留したとしても,人の健康を損なうおそれがないことが明らかであるものである.
(3)残留基準等告示(食品,添加物等の規格基準の一部を改正する件(平成17年厚生労働省告示第499号))
 食品衛生法第11条第1項に基づく食品規格として,農薬,動物用医薬品等799物質(農薬等の成分である物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含む))について残留基準を定めた.残留基準の設定にあたっては,国際基準であるコーデックス基準,農薬取締法に基づく登録保留基準,薬事法による動物用医薬品承認時の残留規制,米国及び欧州連合など5カ国の残留基準を参考とした.
 残留基準設定の主な内容は,1)すべての食品について,抗生物質及び化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならないとしたこと,2)遺伝毒性を有する発がん物質など,閾値が設定できない農薬等(15物質)について,すべての食品において,試験法を定め「不検出」としたこと.3)生鮮食品を中心に個別の食品について,農薬,動物用医薬品等ごとに,食品規格を定めたこと.残留基準の設定にあたっては,現行基準の食品分類を改め,香辛料などを追加した.
 上記の三つの告示は,平成18年5月29日から適用されるが,加工食品については,平成18年5月28日までに製造または加工された食品はこれまでの取扱とされる.具体的には,生鮮食品は経過措置の適用対象とならず,平成18年5月29日以降に流通するものは一律基準告示及び残留基準等告示による改正後の規格基準が適用される.一方,加工食品は,国内外を問わず,製造または加工が終了した時点(当該食品が食品として一般消費者への販売に供する形態になった時点)をみて経過措置の対象となるか否かを決める.(「食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第11条第3項の施行に伴う関係法令の整備について」(平成17年11月29日食安発第1129001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知))
 一律基準告示及び対象外物質告示については,内閣府食品安全委員会による食品健康影響評価がなされていないため,施行後評価を依頼することとしている.また残留基準告示のうち,新たに規格を設けた部分についても,本制度の施行後計画的に内閣府食品安全委員会に評価依頼を行うこととしている.
 なお,告示及び関連通知は,厚生労働省食品安全部ホームページで入手できる.
3 お わ り に
 ポジティブリスト制度は,農薬,動物用医薬品等が残留する食品について,その販売や輸入,食品製造・加工への使用を規制するものであり,農薬や動物用医薬品などの使用について直接規制するものではない.制度の導入にあたって残留基準等を定める際には,これまでに行われてきた農薬取締法に基づく登録保留基準や薬事法に基づく動物用医薬品承認時の残留規制措置を踏まえたほか,3度にわたり国内外からの意見を求め,そのなかで農林水産省をはじめ,農薬や動物用医薬品等の関係者からご意見いただき,残留基準告示に反映した.
 したがって,国内においては,農薬取締法や薬事法などに定める使用規制を遵守すれば,生産される農畜水産物に残留する農薬等が食品衛生法に基づき定める残留基準を超えることはなく,食品の流通などに混乱を生じることはないと考える.農薬や動物用医薬品などの使用において従来から求められてきたことであるが,農薬等の適正な使用が,結果として,今回のポジティブリスト制度への対応となる.

(参考資料)
 厚生労働省食品安全部ホームページ・分野別施策「食品中の残留農薬等」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/index.html
 残留基準の詳細は,食品化学研究振興財団HP(以下)で検索できる.
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/pages/MRLs-n

(参考)
食品衛生法第11条第3項(平成18年5月29日施行予定)

 農薬(農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)第一条の二第一項に規定する農薬をいう.次条において同じ.),飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(昭和二十八年法律第三十五号)第二条第三項の規定に基づく農林水産省令で定める用途に供することを目的として飼料(同条第二項に規定する飼料をいう.)に添加,混和,浸潤その他の方法によつて用いられる物及び薬事法第二条第一項に規定する医薬品であつて動物のために使用されることが目的とされているものの成分である物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含み,人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質を除く.)が,人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める量を超えて残留する食品は,これを販売の用に供するために製造し,輸入し,加工し,使用し,調理し,保存し,または販売してはならない.ただし,当該物質の当該食品に残留する量の限度について第一項の食品の成分に係る規格が定められている場合については,このかぎりでない.

 


† 連絡責任者: 宮川昭二(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課)
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