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行政・獣医事

ケタミンの麻薬指定の動きと当面の対応(その3)
〜獣医師と麻薬・ケタミンの麻薬指定に向けて〜

阿部朋弘(東京都福祉保健局健康安全室薬務課麻薬対策係)

 1 ケタミンの麻薬指定
 ケタミンを含有する医薬品は,麻酔薬として犬,猫,エキゾチックアニマル等に幅広く利用されており,獣医療を行うにあたり,なくてはならないものである.
 一方,ケタミンは,フェンサイクリジン(PCP)という麻薬と構造が似ている(図1)ため,同様の幻覚・妄想等が生じる.そのため,日本を含め,世界各国で乱用が問題になっている.また,ケタミンの麻薬指定は,国際的な流れであるといえる.
 ケタミンが麻薬になった場合,麻薬及び向精神薬取締法により,さまざまな規制を受けることになる.しかし,麻薬免許を取得した獣医師が勤務する飼育動物診療施設の割合(図2)は極めて少ないのが現状である.そこで,本稿では,獣医師が麻薬を取り扱うために必要な免許手続きや保管設備について説明したい.

図1 ケタミンの化学構造
 図1 ケタミンの化学構造

図2 東京都における獣医師の麻薬免許取得率(H.18.1.1)
 図2 東京都における獣医師の麻薬免許取得率(H.18.1.1)
 2 麻 薬 免 許
 獣医師が患畜の疾病治療目的で麻薬を取り扱う時,必要な麻薬免許は,麻薬施用者免許と麻薬管理者免許の2つである.以下,それぞれの免許について説明する.
(1)麻薬施用者免許
ア 獣医師が,疾病治療の目的で業務上麻薬を施用するために必要な免許である.
イ 個人に与えられる免許であり,免許人以外は麻薬を取り扱えない.
ウ 免許証に記載された飼育動物診療施設以外では麻薬の施用ができない(免許証に記載されていれば複数の診療施設で麻薬の施用ができる.).
エ 都道府県知事ごとの免許なので,都道府県を異にする2カ所以上の施設で麻薬施用者になるためには,それぞれの都道府県知事から免許を受けなければならない.
オ 有効期限は免許を受けた日から翌年の12月31日までである.

(2)麻薬管理者免許
ア 麻薬施用者が2名以上いる施設では,常勤の獣医師1名が麻薬管理者免許を取得する必要がある.麻薬施用者が1名の場合,麻薬管理者を設置する必要はない.
イ 麻薬管理者はその施設の麻薬管理義務(保管,譲り受け,廃棄,帳簿の記載等)を負う.麻薬施用者が1名だけの施設で麻薬管理者を置く必要はないが,麻薬施用者自らが麻薬を管理しなければならない.
ウ 麻薬施用者免許と同様,有効期限は免許を受けた日から翌年の12月31日までである.

(3)麻薬施用者(管理者)免許申請方法
 東京都で麻薬免許を取得する時の申請方法を以下に示す.
ア 申請書類等
(ア)麻薬施用者(管理者)免許申請書
(イ)診断書(申請書裏面(別様式でも可))
(ウ)獣医師免許証の原本または写し
(エ)飼育動物診療施設開設届の写し
(オ)申請者の印(朱肉を使ったもの)
(カ)手数料4,600円(平成18年1月1日現在)
イ 申請様式ダウンロードサービスURL
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakumu/yoshiki/top.html

(4)麻薬免許取得例
 飼育動物診療施設における麻薬免許取得例は以下のとおりである.
 図3-1の場合は麻薬施用者免許を取得した獣医師が2名以上いるので,院長が代表して麻薬管理者免許を取得している.また,院内の獣医師全員が麻薬施用者免許を取得しているので,全員が麻薬を使った治療を行うことができる.
 図3-2の場合は麻薬施用者免許を取得した獣医師が1名だけなので麻薬管理者をおく必要はない.しかし,麻薬施用者免許を取得していない獣医師は麻薬を使った治療を一切行うことができない.そのため,東京都では,麻薬を使用した治療を行う可能性のある獣医師全員が麻薬施用者免許を取得するよう指導している.

図3-1 麻薬免許取得例
 図3-1 麻薬免許取得例
〜複数名が麻薬施用者免許を取得する場合〜

図3-2 麻薬免許取得例
 図3-2 麻薬免許取得例
〜1名が麻薬施用者免許を取得する場合〜
 3 麻薬保管庫
 麻薬保管庫の基準は各都道府県ごとに異なると考えられるが,ここでは東京都の麻薬保管庫の基準について説明したい.
(1)保管庫の要件
ア 施錠設備が必要である.なお,2カ所以上の施錠設備(シリンダー錠とダイヤル錠の組合せが望ましい.)を設けるようお願いしている.
イ 金属製の堅固な設備でなければならない.スチール製のロッカー,引き出しは不可である.
ウ 固定して容易に移動できない状態にしなければならない.
エ 麻薬専用にしなければならない.他の医薬品,現金及び書類(麻薬帳簿等)等を一緒に入れることはできない.
オ 購入した麻薬が全量収納できる大きさでなければならない.

(2)保管庫設置場所
ア 麻薬管理者(施用者)の勤務する飼育動物診療施設内に設置する.獣医師の自宅等,当該施設外での設置は認められない.
イ 人目につかず,関係者以外の出入りのない場所を選ぶ必要がある.
 
 4 麻薬の管理
(1)麻薬の譲り受け・譲り渡し(図4)
ア 譲り受け
 麻薬の譲り受けは原則として都内(他県は不可)の麻薬卸売業者からに限られる.飼育動物診療施設間の貸し借りもできない.
イ 譲り渡し
 麻薬を譲り渡すことができるのは,麻薬施用者が患畜に麻薬を施用する場合のみである.麻薬卸売業者への返品もできない.

(2)麻薬廃棄届
 古くなった麻薬や使う必要の無くなった麻薬を廃棄する時は,事前に「麻薬廃棄届」を提出してから,東京都福祉保健局職員の立会いの下廃棄しなければならない.勝手に廃棄することはできない.

(3)事 故 届
 破損,流失等により,麻薬が回収不能になった場合や,盗取,所在不明等の事故があった場合は,速やかに「麻薬事故届」を提出しなければならない.

(4)麻薬帳簿
 麻薬管理者(施用者)は,麻薬帳簿に次の事項を記載しなければならない.また,麻薬の在庫量と帳簿に記載された麻薬の残高は,常に一致しなければならない.
ア 譲り受けた麻薬の品名,数量,年月日
イ 施用した麻薬の品名,数量,年月日
ウ その他(事故,廃棄など)

(5)麻薬管理者(施用者)の届(年間届)
 麻薬管理者(施用者)は,毎年11月30日までに,前年の10月1日からその年の9月30日までに取り扱った麻薬の品名・数量を東京都知事に届け出なければならない.

図4 麻薬の譲受
 図4 麻薬の譲受
 5 ケタミンと麻薬
 ケタミンが麻薬に指定されるとの情報から,市場のケタミンが品薄になったり,行政や獣医師会への質問が殺到するなど,獣医師界全体にかなりの混乱が生じている.
 東京都はこの様な事態を収拾すべく,関係機関への文書による情報提供,東京都獣医師会と連携した講習会の開催などをとおして,獣医師の皆様方への正確な情報提供と麻薬取扱方法の普及啓発を行っている.
 今後,ケタミンが麻薬に指定されても,麻薬の免許を取得した上,法を遵守して管理を行えば,不測の事態が生じることはない.この原稿が,麻薬規制についての認識を深めるための一助となれば幸いである.

 


† 連絡責任者: 東京都福祉保健局健康安全室薬務課
〒163-8001 新宿区西新宿2-8-1